インシデントの原因と種類による対策と防止の方法

悔しがる女性
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インシデントの原因と要因の判断をする

インシデントの原因と要因

インシデントとは事故に至る可能性があったが、事故に至る前に未然に発見し防止あるいは回避した場合のことをいいます。このページでは主に人為的な要因によるインシデントを想定した解説をしていきたいと思います。

まずインシデントが人為的なものかどうかを判断する基準としては以下の2点がポイントになります。

インシデントの原因と要因を解説した図

人為的な要因によるインシデントの場合、「すべきことをしなかった」か「すべきではないことをした」という2点が考えられるわけです。仮に「すべきことをした」あるいは「すべきではないことをしなかった」のにもかかわらずインシデントが発生した場合、そのケースは人為的な要因というより環境的な要因や制度上の要因が考えられるからです。

例えば定められた手順やマニュアルを遵守した行動をとったのにインシデントが発生したのなら、そこに人為的なミスはなく、むしろインシデントが発生した当該現場の環境や定められた手順やマニュアルの見直し・改善が求められます。

このような人為的な要因とはいえないインシデントに対して、人為的な要因によるものとした改善を進めても有意義とはいえません。場合によっては組織のスタッフが不満を抱える結果になるだけかもしれません。

そのためインシデントが発生した場合には、まず前述した2点のうちどちらかに該当するか否かを判断する必要があります。ここで判断を誤れば、人為的な要因ではない問題に対して人為的な改善をしようとしたり、環境や制度上の問題を放置する結果にもなりかねません。

インシデントは問題の分析や改善よりも、問題を定義することが重要です。また、インシデントが発生した場合には、原因と要因を区別することも大切になります。

「原因」とはインシデントに直接的な影響を与えたものをいいます。一方で「要因」とはインシデントに間接的な影響を与えたものをいいます。例えばインシデントが人為的なミスが原因となったものでも、その背景には労働環境や制度上の欠陥などの要因が影響していることが考えられる場合などがこれに当たります。

つまり人為的な原因であれ、環境や制度上の原因であれ、いずれの場合も背後にある要因を考慮することが大切であり、部分に着目するだけでなく総合的な判断による改善が求められるということでもあります。

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インシデントの種類を分類する

インシデントの種類と分類

人為的なインシデントには、さまざまな原因が考えられます。代表的な種類には以下のものがあります。

インシデントの種類と分類を解説した図

インシデントの種類①「不足」

人為的なインシデントの中でも主に経験の浅い新人スタッフや業務内容が頻繁に変化する業務を行う際に多くみられるのが「不足」によるものです。

「不足」と言っても、経験が不足している場合もあれば、知識の不足や技能の不足など様々なものが考えられます。また、制度や取り決めに対する理解不足や認識不足も考えられるでしょう。

いずれにしても「不足」によるインシデントは、本来なら満たされているべき事柄に対する不足によって発生するインシデントのことであり、分析や対策を行う際には「何が不足していたのか」を定義し、それを補う対応が求められます。

インシデントの種類②「不遵守」

「不遵守」によるインシデントとは、その名のとおり手順やマニュアル、制度上の取り決め等を遵守しなかったことで発生する場合をいいます。

前述した人為的な要因による2つのポイントである「すべきことをしなかった」「すべきではないことをした」場合がこれに当たります。つまり「不遵守」とは、「すべきこと」を理解していることが前提にあり、理解しているにもかかわらず守らなかった場合のことです。

インシデントの種類③「不注意」

「不注意」によるインシデントは、当該業務について知識や技能等を満たし、なおかつ手順等も遵守しているにもかかわらず発生するケースです。単純に注意を欠いた場合がこれに当たります。

言い方によっては「注意不足」ともいえるため、①の「不足」とも内容が重複しますが、あえて差異をつけるとしたら知識や技能等の不足はないにもかかわらず起こる場合が不注意といえるでしょう。

つまり「不注意」によるインシデントは、経験の浅い新人スタッフだけではなく、経験豊富なベテランのスタッフにも起こりえるケースといえます。

インシデントの種類④「疲労」

「疲労」によるインシデントとは、過酷な労働環境や多忙な業務環境で休憩がとれないなど疲労による原因によって発生するインシデントです。前述した「不注意」などの背景には疲労が原因になっている場合もあるため、インシデントが発生した場合には背景要因として「疲労」が存在しないか考慮する必要があります。

当該インシデントに関わったスタッフの労働環境や勤務実態などを考慮した上で、インシデントの対策と防止を進めることを要するかもしれません。

インシデントの種類⑤「錯覚」

「錯覚」によるインシデントは、指示書の読み間違い等によって発生するケースです。

例えば手書きの指示書などを利用して複数のスタッフが関与する業務に多くみられるインシデントです。数字やアルファベッドなどを誤って認識したり、確認した対象を「ない」のに「ある」としたり錯覚し思い込んでしまう場合などです。

「錯覚」によるインシデントを防止するためには、人間は錯覚する行動特性を備えていることを認識した上で、確認を怠らないことや表記方法を変更するなどの工夫をすることが重要です。

インシデントの種類⑥「欠陥」

「欠陥」とは業務を安全に遂行する上で必要とされる特質を欠いている場合のことです。

そもそも安全を要する業務に対して注意をすることを全く考慮しない、安全に業務を行うことに対して著しく不適格な勤務態度などもこれに当たります。

①の「不足」との決定的な違いは、知識や技能等は不足していないことです。また、②の「不遵守」との決定的な違いは、その行為を改める様子がみられない点です。

また「欠陥」として考えられるのは、当該業務について著しく素養を欠いてる場合なども考えられるかもしれません。その場合には、当該スタッフの再教育や配置転換等も考慮する必要があるでしょう。

 

ここにあげたインシデントの種類はあくまでも代表的な原因であり、その他のケースも考えれますし、複数の要因が関連して発生する場合もあるでしょう。重要なのは、発生したインシデントがどのような人為的な要因で発生したのかを正確に把握することであり、対策を行う上で適切な分類をすることだといえます。

インシデントの分析をする

インシデントの原因と背景の分析

インシデントの対策と防止を行うためには、インシデントの原因と背景を把握する必要があります。もし仮に原因と背景を見誤ってしまえば、対策の立案と実施が真に有効な対策とはならないためです。

そのため、インシデントが発生した原因と背景を可能な限り正確に把握することが重要であり、そのためにもインシデントの分析は対策のために重要となるのです。

インシデントの分析では、発生した事象に至った経緯を把握する必要があります。また、その業務に関与したスタッフによる業務の流れや他のスタッフとの業務の受け渡しなどの連携に問題は無かったかなどの事実の把握です。

この一連の把握には、主に「出来事流れ図」などの時系列による図を作成します。この図では、発生したインシデントに至るまでの業務の流れ、関与した人物、使用した機器や設備等の情報を集約して行います。この図を作成する作業では、関与した人物による報告または関与した人物へのヒヤリング等を行い、可能な限り経緯を明確にすることが大切です。

そして出来事流れ図の作成ができたら、続いて「なぜなぜ分析」を行います。なぜなぜ分析とは、インシデントが発生した根本的な原因を把握するために行う分析手法です。

なぜなぜ分析を行う意義は、インシデントが発生した原因を表面的に把握するのではなく、根本的な原因を把握することです。それによってインシデントの対策と防止を本当に有効なものとすることができるからです。

なぜなぜ分析で根本的な原因が把握できたなら、その原因(複数の場合もあり)が本当にインシデントの発生と因果関係があるのかを確認します。把握したインシデントの原因が真因であれば、当然ながらインシデントの発生との因果関係があるはずだからです。

以上の流れで原因を特定できたら、次にインシデントの対策案を立案していきます。

具体的なインシデント分析については以下の記事で詳しく解説しています。

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インシデントの対策を立案する

インシデントの対策

インシデントの対策を立案するためには、インシデントの原因となった解決すべき問題を明確にすることが大切です。そのため、対策の立案をするには、下図のような流れによって行うことが一般的となります。

インシデントの対策を立案する流れを解説した図

インシデントの発生をどのように把握するのか。まずここがハッキリとしていなければ、そもそもインシデントの対策は行うことができません。一般的にインシデントの把握は、当事者や関係者の報告によって行われることが多いと思います。しかし、必ずしもインシデントの発生を当事者が発見できるとは限らず、内容を正確に把握できるともいえません。そのため、インシデントの発生をどのように把握し、事故に至ることをどのように防止するのかについて対策を立案する際には確認しておくことが重要となります。

また、そのインシデントは人的な要因によるものなのか、あるいは他の要因によるものなのかも明確にすることも重要です。なぜなら対策を立案する際に、事実誤認したまま進めれば対策案も的はずれなものになってしまうからです。

インシデントの対策を立案するには、これまで解説してきたように問題を定義することが極めて重要となるのです。

インシデントの対策案を立案

インシデントの対策案を決定する際に注意が必要なのは、その対策案が有効な対策となり得るのか否かを吟味することです。例えば対策を行うインシデントが人的要因によるものだった場合、当該インシデントに関与したスタッフへの指導や教育を要することになるでしょう。

その際、インシデントに関与したスタッフは「なぜ」インシデントの発生につながるミスやエラーをしたのかを把握している必要があります。下図のように、一つのミスが原因だったとしても、複数の要因が考えられるからです。

インシデントを防止するための適切な教育方法を解説した図

例えば業務に関する知識が浅く、安全な業務を行うための知識を十分に持たない新人スタッフの場合、知識教育を行うことが適切だったとします。しかし、そのようなスタッフに対して「なぜやらないのか」と責め、態度教育を行っても有意義な対策につながるとはいえません。

逆に経験豊富で「やるべきこと」の知識もあり、それを行う技能も有するスタッフに知識教育を行うのは必ずしも有意義な対策とはならないかもしれません。

大切なのは、インシデントの対策が適切なものであるかを十分に考慮した上で適切な対策案を立案することです。そうでなければ、その対策は「対策のための対策」となり、本来の目的であるインシデントの防止、その先にある事故を防止することに繋がっていかない可能性があります。

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インシデントを防止する方法

インシデントの防止策を実行して評価する

インシデントの対策を立案して実行することによって、その対策がインシデントを防止するために有効な対策であるのか否かが判断できます。ここまで解説してきたインシデントの把握や分析、対策の立案は下図のPDCAサイクルにおける「プラン(plan)」つまり「計画」に過ぎません。

インシデントを防止する方法を解説した図

いわばインシデントの対策を立案することは「インシデントを防止できるのではないか?」という仮説に過ぎないということです。もしそうであるなら、仮説を実行し「検証」する必要があるのです。

インシデントの防止は対策の実行が「ゴール」ではなく「スタート」であるということになります。対策を実行することによって、その結果を定期的に評価し、さらにその評価によっては改善を要するかもしれません。

いずれにせよ、重要なのは継続的な効果の追跡と絶え間ない改善のサイクルです。

インシデントを防止する方法は、この動的な活動の中にあり、その方法を知り得るのはインシデントの発生を防止しようとする現場のスタッフ一人ひとりの中にしかないのです。

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