ノンテクニカルスキル~コミュニケーションの質を向上させる

コミュニケーションをとる4羽のスズメ
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この記事ではノンテクニカルスキルの「コミュニケーション」について解説します。

ノンテクニカルスキルの各スキルの一覧

ノンテクニカルスキル~コミュニケーションの意味と種類

ノンテクニカルスキルの中でも「コミュニケーション」に関するスキルは非常に重要です。安全かつ質の高い業務を行うためには、チームによる連携と協力を欠かすことはできません。そしてその連携と協力はコミュニケーションによって行われるものです。そのためコミュニケーションは、安全で質の高い業務を円滑に遂行する上で重要なスキルとなるのです。

また、過去の事故事例の中にはコミュニケーションのエラーに起因する事故が数多く報告されており、コミュニケーションの不具合は事故に直結する要因になることが裏付けられています。そのため事故防止の観点からも、コミュケーションスキルを学ぶことは有益な学習機会となります。

それでは次にコミュニケーションの定義と種類について解説していきます。

コミュニケーションの定義と種類

ノンテクニカルスキルにおける「コミュニケーション」を解説する前に、そもそもコミュニケーションとは何なのかを考えてみましょう。

この記事ではコミュニケーションを以下のように定義します。

コミュニケーションとは感情や意見あるいは必要事項を言語等で他者に伝達するまたは通じ合うこと

上記の定義を踏まえた上で、さらにコミュニケーションは次の2種類に分類できます。

それが以下で解説する「一方向のコミュニケーション」と「双方向のコミュニケーション」です。

一方向のコミュニケーション

ノンテクニカルスキルの一方向のコミュニケーションを解説した図

まず一方向のコミュニケーションとは、感情や意見あるいは必要事項などの情報を送信者から受信者へ一方的に伝えられる形です。コミュニケーションというと人と人の会話など、情報のやり取りが要件と思われがちですが、一方向の情報送信だけでも広義にはコミュニケーションといえます。

一方向のコミュニケーションは、マスメディアから一般の視聴者や読者に送信される場合もあれば、同じ職場で働くスタッフ同士による一方的な指示などの形で行われる場合もあります。いずれにせよ、一方向的なコミュニケーションとは、情報の受け手である受信者から原則的にフィードバックが無い場合をいいます。

一方向のコミュニケーションは受信者側からのフィードバックが無いため、送信者の意図が正確に伝わっているかは必ずしも確認できません。そのため一方向のコミュニケーションは、時と場合によっては送信者と受信者の間で意図を誤認するなどのギャップが生まれやすい形になります。

とりわけコミュニケーションに起因する事故のリスクが高い現場においては、一方向のコミュニケーションは致命的な事故原因になりかねません。また、コミュニケーションが一方向になりやすい要因としては、職場内における上下関係や過度の権威勾配、あるいは風通しの悪い職場風土や不十分なコミュニケーションが常態化している悪しき習慣などが考えられます。

ただ注意が必要なのは一方向のコミュニケーションがすべて悪いというわけではないことです。例えば緊急時に迅速で的確な対応が求められる場面では、時間的な制約などの理由から、一方向的で強いリーダーシップによる指示が必要とされる場合などもあります。一度に多くの人にコミュニケーションをとる必要がある場合にも、一方向のコミュニケーションが必要となることがあります。

双方向のコミュニケーション

ノンテクニカルスキルの双方向のコミュニケーションを解説した図

双方向のコミュニケーションとは、コミュニケーションをとる当事者同士が共に情報の送信者でもあり受信者でもある場合です。つまりコミュニケーションが一方的ではなく、相互にフィードバックを行う場合です。前述したコミュニケーションの定義でいえば「通じ合う」というのが双方向のコミュニケーションにあたります。

一般的に会話などのやり取りは双方向のコミュニケーションであり、安全が求められる業務を行う現場などでは重要なコミュニケーションの形態となります。またチームで業務を行う現場では、双方向のコミュニケーションそれ自体が安全管理の手段ともなりえます。医療の現場ではチームステップスというツールを活用することで安全管理を行う場合がありますが、これも原則的には双方向のコミュニケーションをベースとしています。

ノンテクニカルスキルにおけるコミュニケーションでは、この双方向のコミュニケーションを有効に実践することが重要であり、チームで安全で質の高い業務を行う上で極めて重要なコミュニケーションの形態となります。チーム内で質の高いコミュニケーションをとるには、コミュニケーションが一方向の矢印ではなくループができるように意識することが重要です。

それでは次にコミュニケーションの手段と方法について解説していきます。

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コミュニケーションの手段と方法

コミュニケーションの手段と方法には、主に以下の4つの形式があります。

  1. 会話
  2. 非言語
  3. 文書
  4. 遠隔
安全のためのコミュニケーションの手段を解説した図

会話によるコミュニケーション

会話によるコミュニケーションは、主に対面によるコミュニケーション方法をさします。対面による会話を通じて行うコミュニケーションは、最も一般的なコミュニケーション方法であるといえるでしょう。

また安全管理の視点からみても、対面での会話によるコミュニケーションは、視覚や音声など多くの情報を交換できるため有効な方法でもあります。そのため、安全に業務を行うことが求められる現場では、対面による会話を基本としたコミュニケーションをとることが望ましいでしょう。

非言語でのコミュニケーション

非言語のコミュニケーションとは、ボディランゲージやアイコンタクトなどの非言語的な方法で行うコミュニケーションです。また、マークや標識による注意喚起や案内なども非言語コミュニケーションの一種です。

非言語コミュニケーションは対面でのコミュニケーションが困難な場合や会話を行うのが難しい場合などには有効な手段ではありますが、必ずしも十分な情報のやり取りを行えるとは限りません。そのため、基本的に非言語コミュニケーションは、対面して行う会話でのコミュニケーションの補足的な方法と考えることが望ましいかもしれません。

文書によるコミュニケーション

文書でのコミュニケーションは、主に書面を通じて行うコミュニケーション方法です。電子的な書面によって行うコミュニケーションも含みます。

文書でのコミュニケーションは、直接は対面せずにやり取りする場合も多く、伝達意図と受け手の解釈の相違からギャップが生まれやすいこともあります。また、手書きの文書によるコミュニケーションの場合には、字の書き間違い等の理由から事故原因になる場合もあるため注意が必要です。

遠隔でのコミュニケーション

遠隔でのコミュニケーションは、物理的に遠い場所から行う方法で、電話やメールでのやり取りが代表的です。また手紙などの書面で行う場合もあり、前述した文書でのコミュニケーションと重複する部分のあるコミュニケーション方法でもあります。

遠隔でのコミュニケーションは、やり取りできる情報が限定的になりやすく、意図のギャップが生まれやすい方法なので注意が必要です。視覚的な情報や伝達したいニュアンスが伝わりにくい場合もあります。そのため遠隔でのコミュニケーションは、対面でのコミュニケーションが行えない場合などに、次善策として行うべきでしょう。

コミュニケーションの向上と評価

コミュニケーションの質を向上させる4つの要素

コミュニケーションはノンテクニカルスキルの中でも中核を担うスキルです。そのためコミュニケーションの質を向上させることは、安全で質の高い業務を行う上で極めて重要なことです。

それではコミュニケーションの質を向上させるためには、どのような点に留意していけばいいのでしょうか。代表的な例は以下の4つになります。

  1. 明示
  2. 時機
  3. 主張
  4. 関与
ノンテクニカルスキルのコミュニケーションの方法を解説した図

明示

コミュニケーションの質を向上させるために、まず最初に留意すべき点は、伝えることの「明示」です。

明示とは伝えるべきことを「ハッキリする」ということです。それは同時に曖昧さや不透明さの排除でもあります。また、情報の一義性によってコミュニケーションをとる当事者同士の共通理解を生むために必要なことでもあります。とりわけ安全が要求される業務を行う現場においては、コミュニケーションをとるスタッフ間に認識のズレや異なる解釈があると危険を招く恐れもあります。そのため、コミュニケーションを向上させるためには、伝えるべきことを可能な限り明示することが大切になるのです。

伝えたいことを明示するためには、伝達したい情報の「内容」「手段」「理由」「人物」などを明確にすることが重要になります。また必要に応じて、「状態」「状況」「背景」「要求」「推奨」などを意識して明示することも大切になります。

時機

コミュニケーションをとる上で「時機」を考慮することも重要となります。時機とはつまりタイミングのことであり、伝えるべきこと(明示)を伝えるべき時(時機)に伝えるということです。

伝えるべき時を逸してしまい事後的な報告になることで、危険がともなう場合もあります。事前・事後というのは、基本的に時機を基準に語られるものです。しかし時機というのは、その内容などによっても様々であり、必ずしもハッキリと決まっていない場合もあるものです。そのため、安全が求められる現場においては関係者間での共通理解が重要になってきます。コミュニケーションをとる時機については、可能な限り事前に確認し合っておくことが大切です。

主張

伝えるべきこと(明示)や伝えるべき時(時機)に気をつけていても、情報の受信者がその重要性に気づいていなければ質の高いコミュニケーションをとることはできません

また、職場内での上下関係などの権威勾配がある場合や風通しの悪い職場風土がある場合などでは、伝えるべきことを遠慮して言えないこともあります。そのため重要なのは、日常から伝えるべきことや主張を言いやすい雰囲気をつくり、事前に組織内で合意形成しておくことです。

とりわけ安全上必要となる情報の伝達や主張などをスムーズに行えるように、コミュニケーションをとりやすい職場風土をつくるように心がけ、適度な権威勾配を意識的につくるように努めることが必要です。

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関与

「主張」でも解説したように、コミュニケーションの質は情報の送信者だけでなく受信者側の対応で決まる部分が多分にあります。どれほど明示的にタイミングよくコミュニケーションをとろうとしても、受信者である受け手の関与する姿勢が重要になるからです。

「傾聴」という言葉があるように、受け手の積極的な関与と能動的なコミュニケーションへの姿勢が重要になるわけです。そのため、「主張」することと同様に「関与」も日常から組織内において確認し合い、全体で合意を形成しておくことが求められます。

コミュニケーションの評価

コミュニケーションがより良く行われているかを評価する場合には、「明示」「時機」「主張」「関与」の4つの要素が日常業務の中で出来ているかを判断する必要があります。

また、コミュニケーションが一方的にではなく、双方向的に行うことが出来ているかを判断するために、コミュニケーションをとる関係者の間で「ループ」が形成できているかを確認することも大切です。

安全で質の高い業務を行うためには、コミュニケーションの質を向上させていくことは避けては通れません。そのため、職場内において関係者全員の共通理解を深め、話し合いがしやすい職場風土をつくることが大切です。

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