クリニカルラダー作成~例をつかって項目をつくる手順を解説します

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看護師のキャリアデザインに欠かせないキャリアラダー。日本看護協会が推進しているクリニカルラダー(JNAラダー)をベースにして、いかに自施設においてラダーを作成していくのか。どのようなことに留意して作成していくかの手順をわかりやすく簡潔に解説します。

クリニカルラダーの作成

クリニカルラダーの構築は、まず何を施設として評価し育成していくのかが明確であることが大切です。そのため、ラダーの作成は十分に検討していく必要があります。

ラダーを作成する際のポイントとなるのは、レベル別の項目内容を決める前に、最終的な目標となるゴールが設定されていなければなりません。

それぞれのレベルごとの項目は、そのゴールから逆算されたものであるべきということです。

ゴールを明確化することは、施設の管理者側にとっても、スタッフ一人一人にとっても大きなメリットがあります。なぜなら明確な目標を持つことによってより段階的な目標設定が可能となり、日々の業務における課題や行動指針も明確になるからです。

それによって、施設におけるクリニカルラダーと個々のスタッフの目標がリンクし、より実践的で現場に落とし込みやすい行動に直結していくのです。

スタッフにとっては日々の実務が成長の機会と感じられますし、管理者側も明確な基準に基づいた客観的でわかりやすい評価を行うことが可能になります。

そのことによって、ラダーの管理・評価のみならず、医療あるいは看護の質向上に大きく貢献することができるのです。

以下ではクリニカルラダーを作成する際の手順と作成例を解説していきます。

クリニカルラダーの作成はJNAラダーをベースにする

公益社団法人日本看護協会は「看護師のクリニカルラダー活用のための手引き」の中で次のような目標を掲げています。

標準的指標として様々な施設や場においてJNAラダーの導入および活用が普及することで、組織単位に留まらず、看護師間・施設間・地域間がつながり、2025年に向けて、疾病の発症や重症化予防から急性期・慢性期・在宅療養に至るすべての健康段階での切れ目のない看護提供へつながることを将来像として目指しています。

公益社団法人日本看護協会クリニカルラダーの活用より

つまりクリニカルラダーを各施設において、標準的な指標として活用できるように努めているということです。そのため、クリニカルラダーのベースとなる項目を事例を用いてわかりやすく提案しています。

日本看護協会のクリニカルラダーを説明した図

各施設においては、この看護協会版のクリニカルラダー(以下JNAラダー)をベースにして、より自施設に適したラダーを作成することができます。

それによって、ベースとしては標準的な指標があり、その上で各施設における独自のラダーを作成するというバランスをとることが可能になるのです。

あまりにも独自性の高いラダーを作成してしまった場合、スタッフが転職したりする際に、他の施設との差異が大きくなり過ぎてしまい、レベルの判断が難しくなってしまう場合もあります。

そのため、標準的指標をベースにして、各施設における詳細な項目を作成するとよいということです。

クリニカルラダーを作成する基礎を説明した図
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クリニカルラダー項目を作成する例

クリニカルラダーを作成する際のポイントは、いかに実践的で機能的な項目を設定していくかにあります。JNAラダーをベースにしながら、自施設の専門性(診療科目や専門分野)や組織の理念を加えていくことが大切です。

この項では、自施設においてラダーを作成する際の手順例と方法を解説していきます。

①チームの編成とブレインストーミング

ラダーを作成するためには、まず十分な検討が必要になってきます。そのため、できる限り業務に精通し熟練したメンバーを中心に作成チームを編成します。

チームのメンバーは5~7名が理想的といわれています。場合によっては10名ほどのメンバーでチームを編成することもあります。

チームを編成する際のポイントは、前述したように業務に精通していて経験が豊富なメンバーを招集するのが望ましいと思います。また、看護職だけではなく、他職種のメンバーを1~2名チームに加えることで、看護職とは違う角度からの客観的な意見を得られることもありますので検討してみましょう。

 

チームを編成したら、まずラダーの目的や意義、どのような内容にしていくかの確認をした上で共有し、「コンセンサス」つまり合意形成をします。

大切なのは向き合うだけでなく、「同じ方向をみて進む」ことです。

チーム内で目的を共有しコンセンサスを得たら、ブレインストーミングしていきます。

ブレインストーミングとは、チームでアイデアを出し合い相互に刺激し合うことで、連鎖的な発想や反応を誘発することができる会議手法のことです。

ブレインストーミングをする際に注意したいのは、次の4原則を守ることです。

【ブレインストーミングの4原則】

①判断や結論を出さない

②批判や否定をしない

③アイデアの質より量を重んじる

④アイデアを結合する

ブレインストーミングを有意義なものにするためには、自由な発想を可能な限り多く出すことになります。アイデアに対する結論や評価は、この段階ではする必要はありません。

②KJ法でラダー項目を作成する

次にブレインストーミングで出されたアイデアや意見を、カードや付箋に書き出していきます。書き出す際のポイントは、1枚のカードや付箋に1つずつアイデアを書くことです。

書き出す作業を終えたら、次にアイデアや意見をまとめていきます。まとめるのは類似している属性の項目や能力評価を行う際に同じ領域となる項目になります。

そして次に、まとめた項目ごとにグループ分けしていきます。グループ分けを行う際に注意したいのは、項目の類似性と関係性です。あまりにも類似した項目がある場合には重複した評価項目になってしまう場合もあります。また、グループ内で関係性があまり無い項目がある場合もあります。

そのため、グループ分けの段階において、グループ内の項目が適切か否かを判断するとよいでしょう。

そして、グループ分けを終えたら、項目を1つ1つ文章として書き出していきます。ここで書き出された項目は、最終的なラダー項目の原型となるものであり、まだ最終的な項目を決定するわけではありません。

クリニカルラダーの項目をKJ法で作成する説明図

③ラダーの「妥当性」と「信頼性」の確認

クリニカルラダーの項目を作成する際のマトリクス図

KJ法によって文章化された項目を1つ1つ精査していきます。

精査する際に大切なのは「妥当性」と「信頼性」になります。

「妥当性」とは文字通り、その項目内容がラダーの項目として妥当であるか否かです。

妥当性を判断する際に留意したいには次の3つになります。

①自施設において育成したい人材像を含んでいるか

②評価基準として適切なものか

③項目内容が①と②を判断できる内容になっているか

 

妥当性を検討したら、次に信頼性をみていきます。

「信頼性」とは、作成した項目内容が信頼できるか否かの指標です。

例えば評価者によって評価が変わるような曖昧な内容、レベルアップを目指すスタッフが目指す方向を誤ってしまいかねない内容のことです。

つまり、信頼性とは一貫性があり、誰がみても同じ意味として捉えられる「一義性」があるかどうかです。

信頼性を判断する際に留意したのは次の3点です。

①評価者にとっても被評価者にとっても同一の見解をもてる内容か

②同一ではない評価者あるいは被評価者になっても一貫した見解がもてる内容か

③継続的に基準とすることができる安定した内容か

 

これらの妥当性と信頼性をしっかり精査し、ラダー項目として質の高い内容を作成していきます。

そして、この段階で適切だと判断できる内容が、自施設におけるクリニカルラダーの項目として採用されることになります。

コンピテンシーを基盤にしたクリニカルラダーを作成する

コンピテンシーとは「成果につながる行動特性」のことです。組織の人材が目指すべきモデルであり、目標とすべき人材像でもあります。

クリニカルラダーにおいて段階的なキャリア開発を実施する際に、コンピテンシーは切り離すことはできません。なぜなら、ラダー開発における各項目は、施設で求められる人材像と相違するものでは無いからです。

そのため、ラダー開発を行うにはベースとなる人材像が必要であり、そのベースとして最適なのがコンピテンシー理論ということです。

下記の図はコンピテンシー理論を可視化したコンピテンシーマップです。

コンピテンシーの意味を解説した図

人には様々な個性があり、また強みと弱みも人それぞれです。それらの個性の中から、いかに成果に結びつく行動特性を抽出するのか。それは組織で求められる人材像や施設の理念・専門性が大きく関わってきます。

次の図は、コンピテンシーのモデルをどのように抽出すべきかを図解したものです。

コンピテンシーを基盤にしてクリニカルラダーを開発する際のポイントを解説した図

組織内において優れた成果を発揮している実在の人物をモデルにする場合と組織が求める理想的な人材像をモデル化するケースに大別されます。

しかし自施設において、あらゆる能力がパーフェクトな人物が必ずしも実在するとは限りません。また、理想像をモデル化しただけの場合も現実的に実現が容易ではないということもあります。

そのため、コンピテンシーモデルを構築する場合には、実在するハイパフォーマーの行動特性と理想とする人材像の両面から検討することが大切です。

さらに、ラダー開発のベースとなるコンピテンシーモデルを構築する場合には、以下の6領域を基盤としていくことをオススメします。

コンピテンシーの基本的な領域を説明した図

この図はスペンサー&スペンサーが提唱したコンピテンシーディクショナリーの基本的な領域になります。それぞれの領域には複数の項目があり、その項目に基づいたコンピテンシー評価を行います。

コンピテンシーモデルを抽出することができたら、いよいよラダー開発に活用していくことになります。

コンピテンシーをベースにしたラダーの開発のポイント

コンピテンシーをベースにしてラダー開発をするメリットは、ラダーの各項目を実践的なものにできる点です。

とはいえコンピテンシーは行動特性を示したものであり、ラダーは到達目標を示すものなので、そのままラダー項目に転用することはできません。

例えばコンピテンシーモデルの一つをラダー項目に活用していく場合には、その行動特性を活かして、どのような到達目標を設定するのかが問われるということです。

クリニカルラダーとは「臨床のはしご」という意味ですから、ラダー開発には段階的なレベルの設定と到達目標が不可欠です。したがってコンピテンシーモデルをベースにしてラダー開発を行う場合には、その行動特性をいかに臨床の現場で能力開発していくかという視点が必要になるのです。

コンピテンシーをベースにしたラダー開発を行う際のポイントは、「具体」と「抽象」という視点でみることです。看護職のキャリアは経験年数で推し量るのではなく、経験の質によって評価すべきものです。

そのため、職員一人一人の経験の質が高まるようなラダーを設計していくことが大切になります。

クリニカルラダーのレベルを説明した図

例えば入職したばかりの看護師は、まだ業務のほとんどを経験しておらず、わからないことばかりです。

そのため、先輩看護師の指導や助言を受けながら一つ一つの業務を経験していくことになります。その場合、新人看護師は先輩からの具体的な指示・助言を必要とします。「今」「何を」「どうするのか」という細かいサポートを必要とするのです。

一方で、看護師が成長していく過程においては、少しずつ抽象化して物事を考え行動できるようになっていきます。いわゆる「自立」です。

日本では「抽象」という言葉が、どこか「抽象的」な気がしてネガティブなイメージを持たれることが多いですが、具体から抽象へ向かう過程は成長へのポジティブなシグナルでもあるのです。

ラダー開発に話を戻せば、ラダー開発は新人から一人前までの過程は、わりと作成しやすいものです。おそらくラダー開発に携わった経験のある方ならご理解いただけると思います。

なぜ新人から一人前の段階が、わりとラダー開発しやすいかというと、それは「具体的」だからです。覚えるべきことが明確であり、ほとんど全ての業務において成長が目に見えてわかりやすいからです。

一方でレベルⅢ以上のラダー開発は、少しずつ抽象化されていく過程です。そのため図のとおり多くの範囲において業務に精通し、新人の時代には自分のことで精一杯だったのが、多くの職員を管理できるところまで成長するのです。

次にコンピテンシーをベースにしてラダー開発をする流れを解説します。

コンピテンシーをベースにしたラダー開発の5ステップ

コンピテンシーをベースにしたクリニカルラダー開発の手順を解説した図

コンピテンシーをベースにしたラダー開発は、ラダー項目の作成する時点でコンピテンシーの抽出をしておくことが必要です。ラダー項目を作成し始めてから項目をあれこれと検討するのは、非常に効率が良くない作業になってしまいます。

そのため、ラダー項目を具体的に作成する段階までに、コンピテンシーの抽出をしておくことが大切です。

ラダー項目の作成は、各項目の信頼性と妥当性を考慮しながら、コンピテンシーに基づいて進めていきます。その際に注意が必要なのは、前述したようにコンピテンシーという行動特性を、いかにラダーの各レベルにおいて到達目標を設定していくかです。

また、ラダー開発をするチーム(多くの場合5~10名ほど)とラダーを評価・承認するチームとを分けていくことも検討しましょう。それによって、客観的に信頼性と妥当性をチェックすることができます。より良いラダー開発をするためにも、開発と承認の過程を2段階にすることをオススメします。

コンピテンシーをベースにしたラダー開発を終えたら、いよいよ現場での活用ということになります。しかし、ラダー開発は実際に現場で活用してみて見えてくる課題があったり、より良い内容への変更点が見えてくることもあります。

そのため、実際にラダーの運用を始めても、常に信頼性と妥当性を追跡・検証、評価していくことが求められます。

まとめ

クリニカルラダーは看護職の継続教育に欠かせないツールであり概念です。

これまでは経験年数によって看護職のレベルを判断する傾向が強く、実態と合致しない教育や育成あるいは評価が行われていました。

しかし、クリニカルラダーのベースとなっている看護ラダーの提唱者パトリシア・ベナーは、重要なのは経験年数ではなく看護の質であると強調しています。

したがって何をベースしてクリニカルラダーの開発を行うのかは、質をベースにして行うべきだということです。そして質とは何なのか?という問いに対応してくれるのがコンピテンシーという概念なのです。

コンピテンシーは優れた行動のみならず、その背景にある行動特性にも着目する非常に有意義な視点を与えてくれる概念です。そのため、より実践的で具体的な行動指標と具体的な道標をラダー開発に活かすことができるのです。

クリニカルラダーの作成はJNAラダーをベースにした上で、自施設のラダーを作成して加えていくことが大切です。

より自施設の環境(専門性や理念など)に合致した内容にすることによって、より実践的で現場の状況に見合った人材を育成していくことが可能になります。

また、クリニカルラダーを作成した場合、実際の現場において追跡評価していくことも大切です。作成した内容すべてが必ずしも最終的にベストなものかはわからないからです。

そのため、クリニカルラダーの作成はゴールではなくスタートに過ぎないということを忘れないことが重要なのです。

空へ登っていく梯子

【看護管理】クリニカルラダーとは~到達目標の設定と評価項目

2017-10-30
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