医療の質を評価する~ドナベディアンモデルの意味と事例

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医療の質とは何か?その定義と意味について

医療の質とは何かを解説する前に、医療の質という場合の「質」とは何かを解説します。

質というのは絶対的なものではなく、相対的なものです。環境や状況によっても求められる質は変化します。ある場合には質が高いとされるものが、他の場合には質が低いとみなされる場合もあるということです。

そうであるなら一体、何をもって「質」を判断するのか?

それは「効用への適合」です。

まず下図をご覧下さい。

医療や看護の質を説明する概念図

例えば医療の場合、何か目的があって行為をします。その目的とは状況によっても様々ですが、その時、その状況の中で必要があって行うわけです。そのため、「効用への適合」とは、言い換えるなら「目的達成への適合」ということができるでしょう。

つまり、どれだけ医療を提供する側が「質が高い」と思っている行為をしたとしても、その効用(結果)が目的と適合していないなら質が高いとはいえないということになります。

医療の質をどのように評価するのかについて、ドナベディアンモデルというものがよく活用されます。

ドナベディアンは医療の質を評価する場合、「構造(structure)」→「過程(process)」→「結果(outcome)」という3つの側面から行うことを提唱しています。

これを「ドナベディアンモデル」といいます。

次にドナベディアンモデルによる医療の質評価を解説していきます。

ドナベディアン(Dona-bedian,A.1919-2000)
レバノンのベイルート生まれ。ベイルートアメリカ大学で医師免許を取得。卒業後にハーバード大学公衆衛生大学院で公衆衛生学の修士を取得。ベイルートアメリカ大学、ハーバード大学公衆衛生大学院、ミシガン大学、ニューヨーク医学校などで教育者として活動。米国国立科学アカデミーのメンバー。ミシガン大学で教授をしていた時に医療の質評価のドナベディアンモデルを提唱した。
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医療の質評価~ドナベディアンモデル

医療の質を評価するドナベディアンモデルは、以下の3つの要素で成り立っています。

医療の質評価のドナベディアンモデルの説明図

構造・過程・結果について解説していきます。

構造(STRUCTURE)

構造(ストラクチャー)とは、医療が提供される諸条件を構成する因子のことです。

例えば「1病床あたりの医師・看護師の人数」、あるいは「設備の投資規模や情報システムの有無」などです。より具体的には以下のものがあります。

物的資源施設や設備の規模、内容

設備投資の規模

情報システムの活用

医療機器等の充実度合い

人的資源1病床あたりの医師や看護師の人数

医療スタッフの専門性・多様性

常勤・非常勤の人数や割合

所属するスタッフが有する資格

人材育成・教育への投資

組織的特徴医療従事者の組織

教育研究に関する機能

地域連携組織の有無

紹介率

この表でわかるように、ドナベディアンモデルにおける「構造」とは、医療を提供する際に「どういった状態で提供されたのか」という前提となる条件のことです。

過程(PROCESS)

過程(プロセス)とは、「医療がどのように提供されたか」です。簡単にいうと「どのようにしたのか」です。

医療の質評価における「過程」には、例として以下のようなものがあります。

ドナベディアンモデルにおける「過程」
診断、治療、看護、手術、リハビリテーション、予防、接遇、患者や家族の医療への参加、など

医療をどのように行ったのかを「過程」では問われます。医療者側が一方的に行ったものだけでなく、患者が行ったこと(リハビリや薬の服用など)も過程に含まれます。

結果(OUTCOME)

結果(アウトカム)とは、提供された医療に起因する個人または集団の変化のことです。つまり「どうなったのか」です。

「構造」と「過程」を経て、その結果どのような状態になったのかをみるのが「結果(アウトカム)」です。

・患者や家族が得ることができた健康に関すること

・治療による成果

・患者や家族が得ることができた満足度

・患者が得ることができた安楽度

・再入院率や事故発生率など

・患者満足度や職員満足度   

など

結果(アウトカム)とは医療が提供された行為の結果ということです。つまり医療とはこの「結果(アウトカム)」を向上させることが目的ということになります。

医療の質評価~ドナベディアンモデルの事例

ドナベディアンモデルによって、どのように医療の質を評価していくのかを解説します。

ここでは「与薬」を例にしていきたいと思います。

【医療の質評価の事例】

ある病棟において看護師による「与薬」のインシデントが頻発しており、業務の改善が必要である。

このような状況において、まず「構造」「過程」「結果」の観点から改善する方策を検討してみましょう。

構造(ストラクチャー)

構造をみていく場合には、まず与薬のインシデントが発生した際の時間帯や看護師の配置人数、病棟における医療安全に関する教育体制などをみていきます。

つまり、どのような背景によってインシデントが頻発しているのかを、可能な限り把握していく必要があるのです。

例えばインシデントが夜勤時に多発しているという場合、夜勤時の人員は足りているか否か、経験の少ない新人が大きな負担を受けていないかなど、構造的にインシデントが発生している因子がみえてきます。

過程(プロセス)

「過程(プロセス)」では、「どのようにしたのか」をみていきます。つまり、与薬のインシデントとは、誤薬なのか与薬のし忘れなのかといった内容です。

また、患者の名前を確認するのを怠ったとか、薬を取り違えたなどの具体的な内容を把握します。

状況を把握することによって、なぜインシデントが発生したのかが理解できれば、その原因となった行為を改善していくことが可能になります。

結果(アウトカム)

構造と過程の結果、「どのようになったのか」をみていきます。

与薬のインシデントによって患者にどのような影響があったのか、あるいはインシデントに直接関与した看護師の心理状態などです。

ここで注意が必要なのは、患者への影響だけでなく、インシデントに関与した看護師にどのような心理的変化があったのかをみることです。

結果(アウトカム)とは、患者やその家族への影響だけでは無いからです。

また、結果(アウトカム)は医療において最も重要な目的ではありますが、結果というのは当然ながら過程があって生じるものです。

そのため、結果を評価すると同時に構造や過程も考慮していかなければなりません。構造、過程、結果の把握ができたら、それら一つ一つの関連をみていく必要があるということです。

事例の与薬によるインシデントの場合なら、まずどのような構造において過程に影響を与え、それが結果にどう結びついているかを検討する必要があります。

そして、結果を評価の指標としながら、「質の改善」「質の向上」のために、どのような改善や対策をするかを具体的に検討し実施していきます。

まとめ

医療の質を評価する方法は様々ありますが、この記事で解説したドナベディアンモデルは多くの医療機関で活用されている最もポピュラーな評価手法です。

ドナベディアンモデルは医療の質を「構造」「過程」「結果」という3つの側面から評価していきます。

医療の質を評価する際にポイントとなるのは「評価そのものが目的ではない」ということです。あくまでも質の評価は「医療の質向上のため」に行うものであるということです。

そのため、ドナベディアンモデルを医療の質評価に活用するとしても、質向上を実際に行うのは、医療機関あるいは職員一人一人であるということを決して忘れてはなりません。

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