コンピテンシーの概念を人事評価や人材育成に活用するためには、適切なモデルを設計していく必要があります。それによって、評価基準となる項目を明確化することができるのです。
この記事ではコンピテンシーの評価モデルを設計して、組織の個々人の目標といかにリンクさせていくのか。詳細な方法を解説していきます。
目次
コンピテンシー評価モデルと評価基準
そもそもコンピテンシーの評価モデルを設計する目的は、成果をあげている人物の行動特性を把握して活用することで、組織のパフォーマンスを向上させるためです。
そのためには、成果をあげている人物(以下ハイパフォーマー)の行動特性を把握する必要があります。その行動特性を把握した上で評価基準の設定に活かし、組織全体のパフォーマンスを向上させていくことができるのです。
その過程を図にしたものが以下になります。
ハイパフォーマーの行動特性を把握することが、コンピテンシー評価モデルを設計する出発点となります。行動特性の把握が明確にできていなければ、評価モデルを構築することができません。
そのため、モデルを設計するためにはハイパフォーマーと面談してヒアリングする必要があります。場合によっては、コンピテンシー評価モデルの設計に、複数のハイパフォーマーを中心としたチームをつくることもあります。
いずれにしても、行動特性を把握することは、モデルを設計する際の最重要課題となります。行動特性を把握して評価基準に活用して、個々人の目標や日々の行動に落とし込んでいきます。
そうすることによってはじめてコンピテンシーサイクルが始動するのです。
コンピテンシーサイクルを、より高次な次元で機能させるためには、コンピテンシー評価モデルに関与する三者(ハイパフォーマー、評価者、被評価者)にとって、各々がWin-Win-Winの関係になれるかがポイントです。
それでは次に評価モデルを設計する際に、どのようなタイプがあるかを解説していきます。
コンピテンシー評価モデルを作成する場合の3つの能力タイプ
コンピテンシーの評価モデルを設計する場合には、原則的に3つのパターンが存在します。
①理想型モデル
まず1つ目は「理想型モデル」です。
理想型モデルとは文字どおり企業側が求める人材像に基づいて、評価モデルを設計していくタイプです。このタイプでは大枠となるモデルを想定した上で、細かい評価項目を設定していきます。
また、理想型モデルを採用して評価モデルを設計していく場合には、モデルとすべきハイパフォーマーの存在に乏しいときに有効なパターンでもあります。
理想型モデルに基づいて評価モデルを設計する際の注意点としては、理想を追求し過ぎてしまい、現実離れした評価モデルや項目を設計してしまう可能性がある点です。
いかに現実に即した実務的なモデルを設計できるかがポイントとなります。
②実在型モデル
2つ目の「実在型モデル」は、実際に存在するハイパフォーマーをモデルにして設計していきます。
コンピテンー評価モデルを組織で採用する場合、この実在型モデルを採用することが基本となるでしょう。実在型モデルは実在する人物をモデルにして設計することができるので、理想型モデルよりも現実的で効果的なモデルを設計することが可能になります。
実在型モデルに基づいた評価モデルを設計する際に注意したいのは、ハイパフォーマーの行動特性を可能な限り正確に把握できるかという点です。また、ハイパフォーマーの行動特性が、他の人々にとってモデリングしづらくて再現性に欠ける場合には、評価モデルに採用するか否かを検討する必要があります。
③ハイブリッド型モデル
3つ目は「ハイブリッド型モデル」です。
ハイブリッド型モデルは「理想型モデル」と「実在型モデル」の良い面を合わせたモデルとなります。前述したように、理想型モデルと実在型モデルには一長一短があります。ハイブリッド型モデルは、それぞれの良い面を評価モデルの設計に組み込み、望ましくない部分は補完し合うということが可能になります。
また、ハイブリッド型モデルの場合には、ハイパフォーマーにとってもさらなる向上をする機会を与えます。もしも実在型モデルのみ採用してモデルを設計したなら、ハイパフォーマーにとって「既に普段していることに過ぎない」となるでしょう。
そのため、すべての被評価者にとって、ハイブリッド型モデルは有意義な評価モデルとなるのです。
コンピテンシーを引き出す面接でのヒアリング
コンピテンシー評価モデルをどのように設計するかを決定したら、次にハイパフォーマーと面談して行動特性を把握していきます。
もしもコンピテンシー評価モデルをハイパフォーマーで構成されたチームで行う場合には、それぞれの成果につながる行動特性を自ら掘り下げていくことになります。
行動特性を抽出して把握していくために重要になるのは「適切な問い」です。つまり「なぜ高い業績や成果をあげられるのか?」という問いです。この問いこそが、コンピテンシーを引き出す最大のポイントとなるのです。
そのため、ハイパフォーマーからヒアリングを行う評価者は、事前に「どのような成果について」「どのような行動特性を抽出したいのか」を明確にした上で実施することが求められます。
それでは次にどのような行動特性を把握していくのかを解説します。
コンピテンシーの項目を作成するための具体的な一覧
コンピテンシー評価モデルの項目を作成する際には、まず評価の領域を決定します。その上で各々の領域における項目を作成していくことになります。これをクラスター化といいます。
どのような領域を作成して、さらに項目を作成していくのかは業種や職種によっても違いがあります。そのため、ここでは基本となる領域と項目を例に解説していきます。
コンピテンシーディクショナリーの6領域20項目
コンピテンシーディクショナリーはライル・M. スペンサーと シグネ・M. スペンサー(スペンサー&スペンサー)が開発したものです。下図のように、まず6つの領域に分類します。
この6つの領域を大枠にして、それぞれの領域における20項目を分類していきます。20項目については以下の図になります。
コンピテンシーディクショナリーの6領域20項目を参考にして、それぞれの要素を考慮した具体的な評価項目を作成していくことになります。
評価項目を作成する際のポイントは、いかに現場の実態と項目内容をリンクさせていくかにあります。評価項目は現場に落とし込まれていくことになりますので、抽象的な内容ではなく具体的な内容が望ましいです。
またコンピテンシーディクショナリーは、あくまでも1つの指標です。業種や職種によっても内容は変化する可能性があります、そのため、あくまでも評価項目を作成する際の参考と捉えることをオススメします。
評価項目は評価基準にもなりえますので、内容は慎重に十分な検討をした上で決定していくことが大切です。また、作成した評価項目はあくまでも現状におけるベストであり、必要な場合には随時改訂することもあるでしょう。
評価モデルや項目が、実際の運用によって不十分だと感じた場合には、再度コンピテンシーの行動特性を把握することも重要です。
まとめ
コンピテンシーの概念を組織の人事評価や人材育成に活用するためには、適切な評価モデルを設計する必要があります。この記事では、その設計プロセスとして、ハイパフォーマーの行動特性を把握し、評価基準を明確化する手順が紹介されています。
コンピテンシー評価モデルは、理想型、実在型、ハイブリッド型の3つのアプローチがあり、それぞれのメリットとデメリットが考慮されます。最も効果的なモデルを構築するためには、ハイパフォーマーとの対話が不可欠であり、適切な質問を通じてコンピテンシーを引き出すことが強調されています。
具体的な評価項目を作成する際には、コンピテンシーディクショナリーの6領域20項目を参考にし、現場の実態とのリンクを確保することがポイントです。評価項目の具体性と現実性が求められ、随時改訂する柔軟性も重視されています。
結局のところ、コンピテンシー評価モデルの構築は、組織全体のパフォーマンス向上を念頭に置いたプロセスであると強調されています。