レジリエンスを高めることで安全な組織をつくる

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レジリエンスとは「回復力」「復元力」あるいは「弾力性」など、さまざまな定義によって表現できる概念です。「いくつもの顔を持つ言葉」とさえ言われるほど、ある意味では非常に柔軟な言葉です。それゆえに、個人のみならずチームや組織など色々な状況や状態に対応できる概念なのです。

レジリエンスと安全な組織

レジリエンスの概念図

レジリエンスが高い組織と低い組織

レジリエンスは望ましい状態(定常状態)が、内的あるいは外的な要因によって崩されようとするときに真価を発揮します。レジリエンスの高い組織は、定常状態が状況変化に直面したとき、業務の基本的な目的や健全性を維持することができます。

一方でレジリエンスが低い組織は、定常状態が望ましくない状況変化に直面したときに混乱したり、状況の悪化に対応できません。最悪の場合は為すすべも無く崩れ行く状態を悲観し傍観するしかないかもしれません。

組織の安全活動は多くの場合「事故を起こさないため」の活動として行われています。そのために事故に至らないように防護壁を設けて、組織の成員一人一人に注意を促します。つまり、組織として頑強さを追い求めるわけです。その取り組みは決して間違ってはいません。

しかし、頑強な組織とは、ときには脆いものです。そもそも前提として「事故を起こさない」ことが主眼であるため、組織としての許容度が低いためです。なぜ組織の許容度が低いかというと、事故は「悪」であるため、事故につながる可能性のある些細なミスも許されない組織風土があるからです。そのためインシデントも事故につながる可能性があるものとして忌み嫌うのです。そうでなければ「事故を悪しきものと考える思考」と整合性がとれないからです。事故を想定すること、予見することが組織のジレンマになっているのです。

インシデントを学習の機会として捉えるというよりも「事故に至る可能性があった出来事」として対処しようとするのです。そのような組織ではインシデントを学習の機会と捉えることはできません。そういった組織では、インシデントを報告することが始末書の提出のようになっています。当然ながら組織の成員もインシデント報告を罰のように感じています。

声高に「インシデントレポートは始末書ではない反省文でもない」と叫んでも、実際の状況は始末書であり反省文のような取り扱いなのです。こうして報告する文化が形骸化していくのです。

現場からの報告を躊躇させて、いったいどうやって現場の状況を知るのでしょう。それぞれの現場に「専門の監視員」でも配置するのでしょうか。

レジリエンスの高い組織にはフィードバックがある

レジリエンスの高い組織には状況の変化や危機を察知する特性を備えています。そして、その察知する特性は状況を的確に認識することで可能になるのです。

前述したインシデントの報告システムは、まさにフィードバックそのものです。現場の状況を常日頃から把握し、問題点を改善するための情報を得ることができます。このフィードバックがなければ、組織として状況を的確に認識することができません。そのため、レジリエンスが低い組織となっていきます。

フィードバックが乏しい組織では、状況の変化や危機に対して極めて鈍感になっていきます。なぜなら、状況を正確に把握できないからです。そのため、危機に直面したとき対応が遅れ、危機をより拡大させてしまいかねないのです。

フィードバックは、レジリエンスを高める上で必須の条件と言っても過言ではないでしょう。

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レジリエンスを高める4要素

レジリエンスを高める要素の説明図

レジリエンスを高める上で重要な要素は4つあります。以下でそれぞれの要素をみていきましょう。

予見する

予見するとは今後に起こる可能性のある状況の変化や危機を想定することです。これは普段から現場の状況を的確に把握していなければできないことです。また、インシデントを学習の機会に活かさない組織風土を排除する必要もあります。

監視する

予見するだけでは不十分です。監視することによって、状況の変化や危機に気づくことが大切になります。平素から状況の変化や危機に対して敏感で、鋭い観察を行う必要があるのです。

対処する

予見し監視することができても、実際に状況の変化や危機に直面したときに対処できることが求められます。そのため、事前に対処する手段を確保したり、組織的にどのように対処するのかを取り決めておくことも有効でしょう。また、組織の成員が個々にスキルを磨くことも大切です。

学習する

状況の変化や危機に直面し、どのように対処したかを振り返り、学習の機会として活かしていくことも大切です。インシデントをアクシデントに発展する前にどのように回避あるいは対処したか。それら一連の出来事は、今後の組織安全に活かせる学習の機会となるのです。そしてその学習が、今後の「予見」「監視」「対処」に活きてきます。

組織のレジリエンスはインサイドアウト

レジリエンスが高い安全な組織の概念図

望ましくない状況の変化や危機というものは、必ずしも外的な要因だけではありません。内的な要因によっても起こることなのです。

望ましい状態を保つには、リスクを排除するための活動だけでは不十分です。レジリエンスの高い組織は、リスクの外的な要因であれ内的要因であれ、内から外へと押し戻す弾力性を有しています。

つまりレジリエンスとはインサイドアウトなのです。

事故を起こさないように防護壁を頑強にするだけでは不十分な理由もここにあります。レジリエンスの高い組織にするには、あらゆる状況の変化や危機に対しても柔軟な対応ができることが求められるのです。

そのために「予見する」「監視する」「対処する」「学習する」という要素を育み、組織的に成長していくことが大切です。

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まとめ

レジリエンスは「回復力」「復元力」「弾力性」などさまざまな定義で表現される柔軟な概念であり、「いくつもの顔を持つ言葉」とされる。これは個人やチーム、組織などがさまざまな状況や状態に対応できる能力を指す。

レジリエンスと安全な組織

  • レジリエンスが高い組織:
    • 定常状態が変化や危機に直面しても、業務の目的や健全性を維持できる。
  • レジリエンスが低い組織:
    • 定常状態が不適切な変化に直面すると混乱し、悪化に対応できない。最悪の場合は崩壊の危険性がある。

安全な組織とレジリエンス

  • 組織の安全活動は事故を防ぐために行われるが、事故を悪とみなす風土が組織の許容度を低くし、報告文化を崩壊させる。
  • レジリエンスの高い組織では、インシデント報告を学習の機会とし、組織全体でフィードバックを得る仕組みがある。

レジリエンスを高める4要素

  1. 予見する:
    • 未来の変化や危機を予測し想定する。
  2. 監視する:
    • 状況の変化や危機に対して敏感で鋭い観察を行う。
  3. 対処する:
    • 予測や監視した状況に対して適切に対処する手段を確保し、組織的な対処手順を備える。
  4. 学習する:
    • 状況への対処を振り返り、学習の機会として活かす。これにより、組織全体が成長する。

組織のレジリエンスはインサイドアウト

  • リスクが外部要因だけでなく、内部要因によっても引き起こされるため、組織のレジリエンスはインサイドアウトなものである。
  • レジリエンスの向上には、組織全体が内部から外部へと押し戻す柔軟性を持つことが重要。
  • 安全を求められる状況においても、安全とリスクは付随しており、レジリエンスの向上は組織の強化につながる。

組織がレジリエンスを高め、より柔軟で弾力性のある状態をエンジニアリングすることが、安全な組織を築く鍵となる。

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