インシデント管理システム~報告によるフィードバックとレスポンス

複数の歯車のイラスト
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予測する方法は確率を計算するか、フィードバックを用いるかの2種類である。

ハーバート・A・サイモン

インシデント管理システムとは~報告から評価そして改善へ

インシデントが発生した場合には、インシデント報告を行うのが一般的です。報告の意義は、インシデントをアクシデントに発展させないために行う場合、あるいは同様のインシデントを再発するのを防止するために行います。

インシデントの報告は、あくまでもスタートであり、その報告に基づいて原因の分析や対策案の立案、そして対策実施、評価へと繋がっていきます。以下の図は一般的なインシデント管理の大まかな流れになります。

インシデント管理システムの流れを解説した図
  1. 報告
  2. 分析
  3. 対策
  4. 評価

「4.評価」とは、対策を実施した結果への評価となります。

インシデント管理システムとは、これら一連の対応を全体として捉えるときの総称となります。また、コンピュータソフトウェアなどのツールをインシデント管理システムと呼ぶ場合もあります。

それでは次にインシデント管理システムの構築と整備の要点を解説していきます。

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インシデント管理システムの構築と整備~現場中心のマネジメント

インシデント管理システムは主に情報として、その挙動を示します。前述したインシデント管理の基本は報告から始まるといってもよいでしょう。ただ例外的に、まだ発生していないリスクに対応する場合、あるいは事故を未然に防止する取り組みをする場合は、報告が存在しなくてもシステムが稼動することもあります。

以下の図は現場のスタッフを中心にしたインシデント管理システムの例です。

インシデント管理システムの構築と整備の要点を解説した図

通常インシデントの管理体制は、施設の管理者を頂点にして安全委員会や安全管理室、事故対策委員会などを構築します。そして、安全管理者を中心にして各現場のリスクマネージャーが配置され、組織全体と個々の現場の体制を整備していきます。この管理体制は組織である以上、必要な体制です。

しかし一方で、そのようなピラミッド型の管理体制だけでなく、現場を中心にしたシステムの運用も不可欠です。なぜなら基本的にインシデントは現場で発生するのであり、対策もまた現場を舞台に行われるからです。

とりわけ情報をタイムリーに現場で活かすには、やはり現場においても必要な情報を保有している必要があります。そのため、インシデント管理システムを構築する場合には、組織体制と共に現場中心のシステムを整備することが大切になります。

また、図で示した赤い矢印の部分は、原則的にすべてフィードバックです。

フィードバックとは?
入力と出力のあるシステムにおいて出力の結果を入力側に戻して制御すること。
結果を原因に反映させること。
日本語でいうと「帰還」

インシデント管理システムにおいてフィードバックの有無は極めて重要な要素です。フィードバックを軽視することは、インシデント管理システムの運用を大きく阻害することになるでしょう。

フィードバックの重要性については、次の項で解説していきます。

インシデントとフィードバック~報告のブラックボックス

インシデントが発生した場合、そのインシデントに関与したスタッフがインシデントレポートを作成して現場の責任者、もしくは安全管理室に提出して報告します。緊急性の高いアクシデントが発生した場合などは、各組織において別の報告体制を整備している場合もあります。

以下の図は、ごく一般的なフィードバックのサイクルになります。

インシデント管理システムのフィードバックを解説した図

この一連のフィードバックサイクルは、どの矢印も非常に重要です。これらの連鎖は、どこか1つ欠けるだけで繋がりを失います。

インシデント管理システムの「システム」とは、要素間の繋がりと相互作用です。そのため、繋がりが途絶えてしまえば、システムは一気に機能性を失います。そのため、この一連のサイクルは例外なくどの繋がりも大切になります。

一般的にインシデント報告は「報告する文化」が強調されるため、「スタッフの報告」が他の部分よりもクローズアップされることが多いように思います。たしかに、現場からのフィードバックがなければ、組織として現場の状況を把握することが困難になります。また、現場からのフィードバックは、インシデント管理システムの始点となることが多いため、決して欠かすことのできないものです。

しかし一方で現場のスタッフが報告したインシデントの内容が、安全を管理する部署等にいったまま、行方知れずになっている場合も見受けられます。もちろん、インシデントの報告数が多い組織においては、すべてのインシデントの分析や対策を行うのは困難な場合もあります。

それでも理想的なのは、インシデントの報告に対して、当該報告をしたスタッフや部署にフィードバックを行うことでしょう。前述した現場中心のインシデント管理システムとは、まさにそういうことです。

報告する現場スタッフの立場からみたとき、その後どう処理されたかわからないようなブラックボックスを作ってしまえば、現場スタッフの安全に対するコミットメントを低下させかねません。

そのため、インシデント管理システムを設計、構築する場合には、フィードバックの流れという視点から構築を検討することも大切となってきます。

それでは次に、最近よくきかれるようになった「インシデントレスポンス」の解説をしていきます。

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インシデントレスポンス~フィードバックを活用する対応

インシデントレスポンスのレスポンス(response)とは、「応答」「反応」「対応」などの意味です。つまりインシデントレスポンスとは、インシデントに対する一連の対応をより高度化した概念です。

インシデントレスポンスは以下の図のような流れで行っていきます。

インシデントレスポンスを解説した図

現場からフィードバックを得たとしても、そのフィードバックに対する何らかの反応が無ければ意味がありません。当然、フィードバックによって、現場の状況を認識したり把握することはできます。しかし、そのフィードバックに対して、どのように反応し何を行うかによってインシデントの存在意義も変わってきます。

インシデントレスポンスが通常のインシデント管理システムと異なる点は、インシデントが発生してから稼動するという受動的なものではなく、あらかじめ準備し積極的に検知し、封じ込めるのか緊急に対応するのかなどを能動的に管理する点です。

インシデントレスポンスは、主に以下の段階を経ていきます。

①準備する、想定する

発生しうるインシデントやアクシデントにを想定し、準備することで積極的に有害事象に向き合っていきます。この段階ではどのようなリスクがあるのかをアセスメントして、そのリスクにどのような対応をしていくのかが問われます。

また、リスクや危険に対して、安全性を向上させるための計画や強化をすることも必要です。スタッフへの周知徹底や危険を想定した危険予知トレーニングなどの教育も有効です。

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②検知する、分析する

検知とは主に能動的に危険を察知する行動です。インシデントやアクシデントが発生して、その事実を認識し把握することは大切ですが、むしろ検知するとはまず平時においてアンテナを立てておかなければなりません。これは「①準備する、想定する」と連動したものであり、事後的な対応ではありません。

もし仮にインシデントやアクシデントなどの有害事象を事後的に発見した場合には、それらを分析した上でどのような対応をとるべきかを迅速に意思決定しなければなりません。これら一連の流れは、準備段階からの綿密な計画と検知する活動を要します。

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③封じ込める、緊急に対応する

インシデントの段階で発見した場合には、アクシデントへ発展する前に何らかの対応を迫られる場合もあります。この段階で重要なのは、直面する事態にどのような対応をするのかという判断と意思決定です。

もはや回避を最優先すべきなのか、あるいはまずは現状で出来る最大の応急措置をとるのか、これらの判断を迫られるときは時間的な猶予があまりない場合が多いでしょう。そのため、あらゆるケースに対応できるように可能な限り事前に想定した準備が必要になります。

④低減する、根絶する

低減あるいは根絶をするのは、通常よくみられるインシデント対策です。

「③封じ込める、緊急に対応する」という差し迫った状況でない場合には、低減や根絶するための分析と対策の立案、そして対策の実施をすることになります。また、「③封じ込める、緊急に対応する」事態が収束した場合には、やはりそれらの有害事象を低減もしくは根絶するための対応が必要になります。

⑤教訓を得る、活動する

インシデント管理システムの最大の目的は、インシデントの再発防止にあります。そのため、個々人も組織も、発生したインシデントから何を学び教訓とするかが大切になります。

また、インシデントレスポンスは本来能動的な管理です。そのため、まだ発生していないが、発生する可能性のあるインシデントを未然に防止するための活動も必要です。

いずれにせよ、インシデントは組織というシステムが示す挙動であり、その挙動を変えるには継続的な学習と活動、構造の変革、文化や意識の改革が必要です。

そういった意味において、すべての安全活動がその組織あるいは個々人のレスポンスなのです。

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