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ヒヤリハット報告書の目的と意義
ヒヤリハットが発生した場合、ヒヤリハット報告書にその内容を記載して報告するシステムを採用している組織も多いと思います。しかし、報告をする目的が明確ではなく、曖昧なまま報告システムを採用している場合も多くみられます。そのため、まず大切になるのは、ヒヤリハットの報告をする目的をハッキリとさせることです。
以下の図は、ヒヤリハットを報告するシステムの全体像になります。
ヒヤリハットを報告する目的は、ヒヤリハットの再発を防止することで、その先にある重大事故の発生を防止することにあります。そしてもう1つ重要な目的は、発生したヒヤリハット事例を他の人々にも認識させ、組織全体の事故防止に役立てることです。
有名な「ハインリッヒの法則」では、1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故があり、さらにその背景には300件のヒヤリハットが存在するとあります。つまりヒヤリハットを報告することから始まる安全対策によって、その先にある事故の防止に役立てることが大切なのです。
また、ヒヤリハットの背景にも数千から数万の「不安全行動」「不安全状態」が存在します。ヒヤリハットの発生は、それら「不安全」の結果であるともいえます。そのため、ヒヤリハットという形で表面化した「不安全」を解消することによって、事故の発生を未然に防ぐことにもなるわけです。
ヒヤリハットを報告する目的は、ヒヤリハットの再発防止のみならず、事故の未然防止のためでもあるのです。
ヒヤリハット報告書の書き方・書かせ方
ヒヤリハットの報告は、主にヒヤリハット報告書を提出することによって行われます(ただし緊急を要する場合には、まず口頭による報告あるいは通報をすることによって行われる場合もあります)。この項では、ヒヤリハット報告書の書き方を解説していきます。
以下の図はヒヤリハット報告書を書く際に必ず含めるべき要素になります。
図の6つの要素は、それぞれの頭文字をとって「5W1H」といわれるものです。場合によっては、これにもう1つの「W」である「Whom(誰に?)」を加えて「6W1H」としても良いでしょう。ヒヤリハットの発生によって影響を受ける人物の有無や複数人が関与する場合などによって使い分けましょう。
「いつ」「誰が」「誰に」「何を」「なぜ」「どのように」という要素を含めることによって、報告を受けた側もヒヤリハットの概要を把握しやすくなります。
またさらに以下の図の要素を含めると、より状況を理解しやすいものとなります。
①具体的である
ヒヤリハット報告書の内容が、大雑把に出来事を追っただけのものだと、報告を受けた側は内容を把握することができません。そのため、内容は可能な限り具体的に記載し、可能であれば図を用いるなどして詳細に発生した内容を書きましょう。
②測定できる
具体的なものとして代表的なものは「数字」です。ヒヤリハットの内容に数値化できるもの、または数値化すべきものがある場合には、可能な限り数字を含めていきましょう。
例えば医療において薬剤の投与量によるヒヤリハットが発生した場合などには、指示を受けた量と誤って投与した量といった数字を含めることは必須となります。また、ヒヤリハットの発生が「時間」に関連するものであれば、時系列にその内容を数字で表現していくことも必要になります。
③望ましい結果
ヒヤリハットが発生したということは、望ましい結果と逸脱した行為が行われたということでもあります。そのため報告書を書く際には、「どうするべき」ところを「どう誤った」のかという内容を記載すると明確になってきます。
また、「過程」の誤りなのか「結果」としてヒヤリハットが発生したのかを明確にし、何がどうのように発生したのかを明示することが重要です。
④可能であったか
ヒヤリハットの中には、かなり無理のある状態が起因となって発生するものもあります。例えば、まだ業務に不慣れな新人社員が、かなり熟練度を要する業務を行ったことによってヒヤリハットが発生したような場合です。
報告書を書く場合には、当該ヒヤリハットが発生した業務が、そもそも可能なものであったかも考慮することも必要です。この内容によっては、その後に実施すべき対策が変わるためです。無知によって発生した場合と不注意によって発生した場合とでは、対策すべき内容も変わります。
⑤要点は何か
報告内容の要点は何なのかを明確に書くことも重要です。
その場合、報告する時点における「報告者としての見解」を記載することが大切になります。つまり、報告者はヒヤリハットの発生をどのように捉えているかということです。
この内容は、報告を受ける側にとっても貴重な情報となります。なぜなら報告者は基本的にヒヤリハットに関与した当事者です。そのため、当事者としての見解を記載することによって、報告を受けた側が必ずしも窺い知れないような情報を得ることが可能になります。
ヒヤリハット報告書の書式と様式~現場に即したテンプレートを作成する
ヒヤリハット報告書の書式と様式は、組織によっても様々です。しかし、記載すべき内容が大きく違うわけではありません。大切なのは、いかにヒヤリハットが発生した現場の状況を正確に捉えられる内容であるか、です。
報告者は基本的にヒヤリハットの書式に従って報告書を書きます。そのため、書式が現場の状況を正確に伝えられないものであるなら改善が必要になります。重要なのは、ヒヤリハット報告書を現場の状況を反映しやすいように随時改訂していくことです。
改訂が必要になるシグナルは、報告書の内容では概要が掴めず、当事者へのヒアリングや現場調査をしなければ内容がほとんど把握できないような場合です。このような場合には、報告書が現場で発生したヒヤリハットの内容を正確に伝えられるものではない可能性があるため改善が必要となります。
また、ヒヤリハット報告書は発生日時、内容、報告者名など必要な項目を含めるのは当然として、さらに図を記載できるスペースや報告者の見解を述べるスペースを設けるようにしましょう。
わかりやすい報告は、報告書の書式によって決まります。
そのため、ヒヤリハットの書式や様式を決定する際には、基本的に報告者がヒヤリハットの状況を伝えやすいものであるべきです。つまりヒヤリハット報告書の書式は、前述した「ヒヤリハット報告書の書き方」を参考にして作成することをオススメします。