ヒヤリハット事例の収集方法
ヒヤリハットの再発を防止するためには、発生した事象を正確に把握することが出発点となります。事象の把握は原因分析に欠かせないものであり、有効な対策を実施するためには事実を正確に捉えることが大切です。そのため安全を実現するには、ヒヤリハット事例の収集が1つの大きなターニングポイントとなります。
ヒヤリハット事例の収集は以下の図で示すように、原則的に現場からの報告という形で行います。
ここでいう「現場」とは、当該ヒヤリハットが発生した場所をさします。ヒヤリハットは基本的に「現場」で発生するものであり、その現場のスタッフが報告するという形態は理に適っています。なぜなら現場の状況を最も知ることができるのは、その現場で業務をするスタッフであるからです。また、ヒヤリハットを発生させるスタッフは、逆に言えば安全を実現しうる人物でもあり、そのスタッフに報告させることは安全を実現する上でも非常に重要なことでもあるのです。
ヒヤリハットの報告は、その状況によって報告形態が変わります。迅速な対応が求められ、なおかつ被害が拡大する可能性のあるものであれば、発見から即座に必要な部署、あるいは人に対して報告しなければなりません。場合によっては発見者が自ら対応を求められる状況もあるため、基本的にヒヤリハット報告は事後的なものになる場合が多いといえます。
一方で当該ヒヤリハットが、事故に至る可能性を排除できたことが確認できたものに関しては、所定の責任者あるいは部署に対して報告書を作成して提出することになるでしょう。
いずれにせよヒヤリハットの収集方法は、その状況に応じて変化するものであり、組織の中で予め報告体制を整備することが必要になります。また、現場のスタッフに対しても、報告体制を周知徹底し、報告の重要性や意義、その方法まで事前に教育していくことが重要となります。
さらに大切なのは、組織内において報告する文化を醸成し根づかせていくことです。現場からの報告を得ることによって始めて原因分析や対策を実行できるのであり、そういった意味においても報告する文化は極めて重要なものとなります。
ヒヤリハットの事例を収集するためには報告しやすさを最大化し、報告のしづらさを最小化することが重要です。そのためには、ヒヤリハットを罰したり、個人を責める組織文化を変化させる必要があるのです。
ヒヤリハットの原因分析
収集したヒヤリハット事例に基づいて原因を分析するためには、まずどの事例を分析するのかを決定しなければなりません。組織によっては報告されるヒヤリハット事例は膨大な数になり、その全ての事例を分析するというのは困難な場合も多いでしょう。
したがって原因分析をする前に、どのヒヤリハット事例を分析し対策をしていくかを決定することが大切になります。その場合にはリスクアセスメントを実施し、多角的にリスクの程度を評価することが有効です。
以下の図は対策することを決定した事例の原因を分析する際の基本的な手順と流れになります。
ヒヤリハットの内容確認とチェック
ヒヤリハットの原因分析は、報告内容のチェックから始まります。
「いつ」「どこで」「誰が」「誰に」「なぜ」「どうしたのか」という6W1Hにしたがって内容の把握と確認、そして精査をしていきます。この場合に注意が必要なのは、報告書によって報告された内容だけでは、必ずしもヒヤリハットの全容を把握できるとは限らないことに留意することです。場合によっては発生した現場の調査、関係者へのヒヤリング等も必要となります。
ヒヤリハットの振り返り
ヒヤリハットの内容を把握できたら、なぜそのような事態になったのかを時間を遡って振り返る必要があります。
振り返りを行う際に重要なのは、結果による先入観や思い込みをせず、冷静に出来事の流れをみていくことです。最初に思い込みがあると出来事の流れにバイアスがかかり、正確な情報を得られない場合があるためです。
そのため、ヒヤリハットを振り返る際には、可能な限り客観的かつ冷静にプロセスを把握していくことが大切です。また、振り返りの段階では分析ではなく事実の把握に焦点を当て、フラットに出来事を把握するように努めましょう。
ヒヤリハットの分析
問題の把握、出来事の流れが把握できたら、いよいよ分析をしていくことになります。
分析をする場合に重要なのは、「なぜ」という問いに対して1つ1つ答えを出していくことです。そうすることによって、事実をより深く認識できると同時に何が問題であったかが明確になっていきます。
また、問題は1つだけではなく複数の要因がある場合も多く、有効な対策を実施するためには漏れなく問題を洗い出すことが必要です。そして分析は1つの手法に依存せず、さまざまな角度から多角的に行うことが有効です。
ヒヤリハットの対策方法
ヒヤリハットの原因分析で明確になった問題に対して、どのような対策を行っていくか。そのためには対策の計画を立て実行にうつしていく必要があります。この段階では対策立案はあくまでも仮説であり、真に有効な対策であるか否かは、対策の実行後に追跡評価することで明確になってきます。
そのため、現時点で有効と思われる対策案も、追跡評価しその有効性を改めて把握していくことが必要です。対策の実行は終わりではなく始まりであり、対策実行後は再び情報の収集へと戻ることになるのです。
ヒヤリハット対策の目的は、当然ながら再発の防止と事故の未然防止にあります。そのため、対策の有効性を追跡して評価をしなければ対策のための対策になってしまい、手段が目的化して本末転倒となります。
ヒヤリハットの原因分析と対策にとって重要なことは、これら一連の流れがシステムとして機能し、継続的に安全を管理することです。したがって、報告する文化の醸成と報告体制の整備は欠かせないものであり、それを組織全体で共有し徹底していくことが大切です。