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リスクアセスメントの意味と目的
厚生労働省は「リスクアセスメント」をこう定義しています。
リスクアセスメントは、職場の潜在的な危険性又は有害性を見つけ出し、これを除去、低減するための手法です。

つまりリスクアセスメントとは、職場における危険性を事前に抽出して、それを評価し、除去・低減するために行う方法なのです。
重要なポイントは「事前」に危険性を見つけ出し抽出することです。
そういう意味では、リスクアセスメントとは危険を未然に除去・防止する手法であり、事後的に対策する手法ではないということでもあります。
リスクマネジメントを行うにしても、リスクコミュニケーションを行うにしても、リスクを評価できていなければなりません。そのため、リスクアセスメントによってリスクを事前に見つけ出し、評価しなければならないのです。
リスクアセスメントの理解を深めるためには、まず「リスク」とは何なのか?「アセスメント」とは何なのか?を知っておく必要があります。
リスクとアセスメントの定義
リスク(Risk)は「危機」「危険」と理解されていますが、危険といっても非常に幅広く受けとることができます。直接的に危険をおかしている場合もあれば、間接的に危険をおかしている場合もあります。
不安全な行為、不安全な状態をリスクとする場合もあります。危険を意識していることもあれば、無意識に危険にさらされてることもあります。
いずれにせよ、私たちは常にリスクの中に存在し、リスクにさらされていると言っても過言ではありません。
リスクと向き合う上で重要な概念の1つは、そのリスクの重篤度と発生頻度です。
すべてのリスクに対して有効な対策をとれるなら、それが理想といえるかもしれません。しかし、限られたリソースの中で、すべてのリスクに対策を施すのは大変な困難がともないます。
そのため、リスクの重篤度(ハザード)と発生頻度などを予測し評価することが重要になってきます。このリスクの予測、見積もり、評価の過程がアセスメントなのです。
リスクアセスメントの目的と意義
前述したようにリスクアセスメントの目的は、危険性や有害性を事前に予測し評価することによって、危険を除去ないしは低減することにあります。
したがってリスクアセスメントを実施する際には、まずリスクである危険性や有害性を理解していなければなりません。
ときどきリスクアセスメントを「リスクの見積もり」と説明する場合がありますが、これは適切な表現とはいえません。なぜなら、リスクを見積もることはリスクアセスメントを実施する過程の一部でしかないからです。
リスクアセスメントの手順と進め方

リスクアセスメントの手順は次のようになります。
①リスク(危険性・有害性)を特定する
②リスク(危険性・有害性)を評価し見積もる
③除去または低減するリスク(危険性・有害性)の優先度を決定する
④リスク(危険性・有害性)を除去または低減するための手段を実施する
以下でリスクアセスメントを進めていく手順を解説します。
①リスク(危険性・有害性)を特定する
リスクアセスメントを進めていくためには、まずリスクを特定しなければなりません。当然ながらリスクを特定できなければ、評価も対策も行うことができないからです。
そのため、まずは職場におけるリスクを抽出して列挙します。
どのようなリスクがあるのかを知るためには、職場の環境や業務における流れなどを把握している必要があります。リスクアセスメントを実施する際には、できる限り職場の環境に精通しており、業務に熟練しているメンバーを実施するチームに加えることが大切です。
もし仮に、リスクを特定する段階において、職場のリスクを特定できず漏れが生じた場合、そのリスクはスルーされることになってしまいます。そのため、リスクを特定する段階において重要なのは、いかに漏れが無いようにリスクを抽出するかにかかっています。
②リスク(危険性・有害性)を評価し見積もる
①で特定したリスクを評価し、危険度を見積もる工程に入ります。
リスクというのは原則的に重篤度と発生頻度によって定義づけることが可能です。そのため、特定したリスクの重篤度と発生頻度を評価して見積もります。
リスクを評価して見積もる際には、下記のような方法を用います。
マトリクスでリスクを見積もる
発生頻度と影響の重篤度をマトリクスで見積もります。
重篤度 | |||||
致命的 | 重大 | 中程度 | 軽度 | ||
発生頻度 | 極めて高い | 5 | 5 | 4 | 3 |
比較的高い | 5 | 4 | 3 | 2 | |
可能性あり | 4 | 3 | 2 | 1 | |
ほんどなし | 4 | 3 | 1 | 1 |
③除去または低減するリスク(危険性・有害性)の優先度を決定する
②の見積もりをベースにしてリスクの評価をします。そして、下記の表で優先度を評価します。
優先度 | ||
5~4 | 高 | 直ちに除去・低減の措置を要する |
3~2 | 中 | 速やかに除去・低減の措置を要する |
1 | 低 | 経過をみながら必要なら除去・低減の措置をする |
④リスク(危険性・有害性)を除去または低減するための手段を実施する
③で優先度が明確になったら、そのリスクを除去・低減するための手段を実施します。
除去・低減を実施する場合のポイントは、まず「除去が可能か否か」を検討することです。リスクを完全に除去できるのなら、低減させるよりもリスクを排除できるからです。
もしも当該リスクの除去が何らかの事情により難しい場合には、そこで低減をするための手段を実施しましょう。
また、除去や低減をする事項について法令がある場合には、しっかり確認の上、実施することが重要になります。
リスクを除去・低減するための手段を実施後は追跡する

リスクアセスメントにより、リスクの除去・低減のための手段を実施した場合には、その事実を関係者や関係部署に周知・報告することが大切です。
また実施後には、行った手段の追跡をして評価することも必要です。当初に想定していた状況と異なる結果になったり、リスクを除去・低減するために行った手段が、違うリスクを生み出している可能性もあるからです。
そのため、リスクアセスメントを実施した場合には、必ず状況を追跡し評価するようにしましょう。また、その際には現場や関係者・関係部署にもフィードバックして、報告することも大切です。
まとめ
リスクアセスメントは、職場における潜在的な危険性や有害性を特定し、これを除去または低減する手法である。厚生労働省の定義によれば、事前に危険性を見つけ出し、これを評価し、除去・低減することを目的としている。このアプローチは、事後的な対策ではなく、危険を未然に防ぐ手法と位置付けられている。
リスクアセスメントを理解するためには、まず「リスク」と「アセスメント」の定義を把握する必要がある。リスクは危機や危険と理解されるが、その範囲は広く、不安全な行為や状態も含まれる。アセスメントはリスクの重篤度と発生頻度を予測し評価する過程であり、これによってリスクの管理やコミュニケーションが可能となる。
リスクアセスメントの手順は以下の通りである:
- リスクの特定: 職場におけるリスクを抽出・列挙する。職場の環境や業務に精通したメンバーをチームに加えることが重要。
- リスクの評価と見積もり: マトリクスや評価方法を用いて、リスクの重篤度と発生頻度を見積もり、評価する。
- 優先度の決定: 評価結果をもとに、除去または低減するリスクの優先度を決定する。高い優先度のリスクには直ちに対策が必要であり、低い優先度のものは経過をみつつ対策を検討する。
- 対策の実施: リスクを除去または低減するための具体的な手段を実施する。法令の遵守も確認しつつ行動する。
- 結果の追跡: 実施した対策の結果を追跡し、評価する。異なるリスクが発生したり、新たな問題が生じていないかを確認する。
リスクアセスメントはリスクを未然に除去・低減する手法であり、実施後は対策の結果を適切にフィードバックすることが重要である。リスクを漏れなく抽出し、経験や熟練度を活かして実施することが、成功につながる要因となる。