ヒューマンエラーとは?定義に必要な3つの条件

口元を手で塞ぐ女性の顔
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To Err is Human (人は誰でも間違える) 

 米国医療の質委員会

「過つは人の性、許すは神の業」という言葉があります。「To Err is Human」と同様に、人は間違えるものだということを表しています。ヒューマンエラーは、人間が介在する状況において常に起こりうることなのです。

この記事ではそもそもヒューマンエラーとは何なのか?定義に必要な条件について説明します。

ヒューマンエラーの定義とは?

ヒューマンエラーとは日本語でいうと「人間に起因する誤り」のことで、人為的なミスのことです。達成しようとした目的とは逸脱した結果に至った行為のことであり、簡単に言うと意図しなかった結果に至った行為のことをいいます。

人間は何か達成したい目的があって行動します。そして目的を達成するために意図して何らかの行動をするのです。しかし、その意図した行動が目的どおりの結果になるとは限りません。

ヒューマンエラーを理解する上で間違えやすいポイントは、意図して間違った場合です。意図して間違えたのなら、ある意味では間違えることに成功しているといえるからです。

それはヒューマンエラーではなく別次元の話です。もし仮に人に対して危害や損害を与えることを意図して行ったなら、それはエラーではなく犯罪です。

もう1つ間違えやすいポイントは、手順やマニュアルを遵守して結果的にエラーに至った場合です。この場合、エラーをした当事者はあくまでも手順やマニュアルを遵守しています。手順やマニュアルを遵守して意図的に行った行為なら、それはヒューマンエラーではなく手順やマニュアルに問題があります。

このことからわかるのは、ヒューマンエラーとは意図した行為とその結果が違う場合に成立するということです。逆説的にいえば、望ましくない結果に至るという意図がないことが条件となるわけです。

ヒューマンエラーの2つのパターン

ヒューマンエラーの意味と定義を解説した図
  • すべき行為をしなかった
  • すべきではない行為をした

ヒューマンエラーは大きく分けると2つのパターンが存在します。

1つは「すべき行為をしなかった場合」もう1つは「すべきではない行為をした場合」です。

すべき行為をしなかった場合のエラーをオミッションエラーといいます。このオミッションエラーで代表的なものに「近道行動」があります。近道行動とは、本来ならすべき過程を省いてしまうことです。

近道行動は意識的に行う場合もあれば、無意識に行う場合もあります。いずれにせよ、すべき行為をしなかったパターンです。このパターンには例として、業務を意図的に簡略化するために行う場合や単純な「し忘れ」の場合などがあります。

また、「すべきではない行為をした場合」のエラーをコミッションエラーといいます。する必要のない行為をしたことによって、エラーを誘発し発生させてしまうパターンです。

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ヒューマンエラーを定義するための3原則

ヒューマンエラーを定義する条件を解説した図

①期待されない行為をしたor期待される行為をしなかった

②達成しようとした目標とは違う結果になった

③目標と違う結果になる意図はなかった

ヒューマンエラーは上記の3原則を満たしているか否かで定義できます。どれか1つを満たしていればよいのではなく、3つの原則をすべて満たしていることが必要です。そういった意味では必要条件ともいえます。

例えば「①期待されない行為をした」ということだけではエラーが発生するとは限りません。たまたま運よくエラーが発生しないという場合もあるでしょう。またさらに、「②達成しようとした目標とは違う結果になった」というだけでもヒューマンエラーとは定義できません。なぜなら、「目標と違う結果」が人的な要因かどうか確定できないからです。

そのため、①と②の条件に加えて、「③意図はなかった」という条件が加わってはじめてヒューマンエラーを定義できるのです。

前述したとおり、意図的なエラーは「ヒューマンエラー」ではありません。なぜなら故意に行っているためです。

ヒューマンエラーはあくまでも故意に行ったミスではなく、意図せずに目標から逸脱した行為とその結果なのです。

ヒューマンエラーではないパターン

前述したとおりヒューマンエラーとは、あくまでも人為的なミスのことです。しかし、事故が発生したからといって、ヒューマンエラーが原因とは限りません。例えば次のような例です。

ある人が定められたマニュアルや手順どおりに業務を行ったにもかかわらず、結果として事故が発生した。

この場合、業務を行った人にとっては事前に意図していたとおりの行動をとっています。しかし、結果的にインシデントやアクシデントに至った。このような場合を人為的ミスと果たして言えるでしょうか?

もし仮にヒューマンエラーになるのなら、人はマニュアルや手順の間違いに対しても、その責任を負わなければなりません。たしかにマニュアルや手順というものは、人の手によって作成されていますので広義の意味では人為的なミスです。

ただし、もしも複数の人が組織的に業務を行っている現場で取り決められたマニュアルや手順どおりに行動したとします。にもかかわらず結果的にインシデントやアクシデントに繋がったという状況があった。このような場合もヒューマンエラーであるなら、事故の原因は基本的にすべて人間のミスということになります。しかし実際には、ヒューマンエラーが存在しなくても事故は起こることがあります。

このことから理解できるのは、ヒューマンエラーは原因ではなく結果であるということです。

ヒューマンエラーとは原因ではなく結果

もしも1つの現場において、繰り返し類似したインシデントが発生していたとします。そうした場合にミスを繰り返している状況に誰でも危機感を持つでしょう。そういった状況では、安全の管理者は原因を分析したり対策を講じるでしょう。スタッフに対してもミスを繰り返さないように注意を促すこともあるでしょう。

しかし違った角度から状況を見た場合、インシデントが繰り返し起こっている状況を、繰り返しミスが発生するような環境下に人が置かれていると見ることもできます。

不安全な環境において、人はミスを起こしやすくなります。例えば取り決められたマニュアルや手順に不備があったり、激務のため疲労が蓄積しているような場合です。

病院ではインシデントを報告するシステムを導入しています。その目的はインシデントの再発を防止し、重大事故につながらないようにすることです。医療は多くの人が介在する人為的な業務が多く、それだけ医療従事者はヒューマンエラーを起こしやすい環境下におかれています。しかし病院では事故の原因を無条件に人に帰す傾向が強く、ヒューマンエラーを事故の原因とみなすことが多いです。

しかし、ヒューマンエラーは必ずしも事故の原因ではなく、その背景にあるさまざまな要因による結果であるという認識を持つことが重要なのではないでしょうか。

まとめ

  • “To Err is Human”(人は誰でも間違える)という言葉があり、これは人は間違えるものだと表現している。
  • ヒューマンエラーは人間が介在する状況で常に起こり得るもので、その定義は人為的なミス、達成しようとした目的とは逸脱した結果に至る行為である。
  • ヒューマンエラーは「すべき行為をしなかった場合」と「すべきではない行為をした場合」の2つのパターンがある。
  • ヒューマンエラーを定義するための3つの原則は、期待されない行為をしたか、期待される行為をしなかったか、達成しようとした目標とは異なる結果になったか、目標と異なる結果になる意図がなかったか。
  • ヒューマンエラーは原因ではなく結果であり、事故が発生しても必ずしもヒューマンエラーが原因とは限らない。環境や条件が不安全な場合、人はミスを起こしやすくなる。
  • 病院などでの事故報告では、ヒューマンエラーが原因とみなされがちだが、事故の背後には様々な要因が影響している可能性がある。

要するに、ヒューマンエラーは人間が達成しようとした目的から逸脱した結果であり、事故が発生してもその原因は単純にヒューマンエラーだけではなく、環境や条件も考慮する必要がある、という主旨です。

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