スイスチーズモデルとは~ヒューマンエラーと組織事故のモデル

スイスチーズ
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スイスチーズモデルとは何か?提唱者ジェームズ・リーズンの事故モデル

スイスチーズモデルの理論と法則

スイスチーズモデルとは、英国の心理学者ジェームズ・リーズンが提唱した事故モデルです。
ハインリッヒの法則と同じく安全管理において頻繁に引用されているモデルです。

ジェームズ・リーズン(James Reason)1938年5月1日-
英国ワトフォード出身の心理学者・ヒューマンエラーの研究者。1962年に英国マンチェスター大学を卒業、1967年博士号を取得。英国レスター大学心理学部で講師、准教授。英国マンチェスター大学の心理学部で教授。英国ハンプシャー州英国空軍航空医学研究所、米国フロリダ州米国海軍航空宇宙医学研究所。邦題『組織事故』の著者で知られる

スイスチーズモデルは、事故は単独で発生するのではなく複数の事象が連鎖して発生するとしたものです。その概念を図にしたものが以下の図になります。

スイスチーズモデルとは何か?その理論と法則を解説した図

通常、事故が想定される場合には、いくつかの防護壁を設けているものです。ここでいう「防護壁」とは、当該危険に対して設けるすべての安全対策を含みます。それは物理的な対策の場合もありますし、知識や技術的な対策の場合もあるでしょう。さらに組織的な安全への取り組みも防護壁といえます。そしてその防護壁を重複することによって事故を防止して、安全を維持しようとするのです。

しかし事故は、これらの防護壁の脆弱な部分や連鎖的なエラーの隙を通過していきます。

いずれにしても事故とは、これら様々な防護壁の穴をすり抜けて、結果的に発生する事象そのものといえます。スイスチーズモデルを提唱したジェームズ・リーズンは、このような事故のモデルをチーズの穴に例えて可視化したのです。

日本では「スイスチーズ」が必ずしも一般的ではなく、すぐに穴のあいたチーズを連想できない人も少なくないでしょう。このモデルを提唱したリーズンは英国人であるため、スイスチーズに例えることで事故のモデルを理解しやすくしたいと考えたと思われます。

重要なことは、事故とは必ずしも個人によるヒューマンエラーだけでなく、複数の人々や組織的な要因によって発生することが多いことです。そういった内容を伝えるためにスイスチーズに例えるのが最適だったということです。

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スイスチーズモデルとヒューマンエラー~組織事故

即発的エラーと潜在的エラーの意味と違い

ジェームズ・リーズンは即発的エラーと潜在的エラーの違いを明確に区別しています。それを図にしたのが以下の図です。

スイスチーズモデルの概念を解説した図

即発的エラーとは、直接的に事故に至る(あるいはその可能性のある)エラーのことです。これには人為的なヒューマンエラーだけでなく、システムのエラーや設備等のエラーも含みます。いずれにせよ、何等かのエラーによって事故を発生させたり発生させる可能性のあるエラーです。

即発的エラーの背景には、組織的あるいは局所的な潜在的要因が存在しており、その中で即発的なエラーが発生することがトリガー(引き金)となって事故に至るのです。

ここで注意が必要なのは、「要因」と「原因」との区別です。

「要因」とは結果に対して間接的に影響を与えるものです。一方で「原因」とは結果に対して直接的に影響を与えるものです。スイスチーズモデルで例えるとチーズの穴が潜在的要因であり、チーズの穴を通過して進行する矢印が即発的エラーです。

つまり即発的エラーやその連鎖は、潜在的なエラーが顕在化したものだということです。ジェームズ・リーズンは、個別的に発生するエラーへの着目ではなく、連鎖的あるいは組織的に発生するエラーに着目することによって事故の多くはあくまでも「組織事故」であるとしたのです。

スイスチーズモデルの事例~連鎖するミスによる重大事故

スイスチーズモデルの概念の正しさを証明するかのように、様々な事故が実際に発生しています。組織事故と定義できる事故には、ほとんどの場合に不運が連鎖していたり、偶然ともいえるエラーの連鎖がみてとれます。

ここで一つ実際の事故事例を紹介します。

横浜市立大学医学部附属病院「患者取り違え事故」

1999年(平成11年1月11日)に2人の患者を取り違えて手術を行うという医療事故が発生しました。

医療事故の概要は、手術室への患者受け渡しの際に起きた患者の取り違えがその後も見逃され、麻酔と手術が続行されたという事故です。この事故のケースでは複数の防護壁を次々とすり抜けており、まさにスイスチーズモデルが現実となった典型的な事例といえるでしょう。

患者取り違え事故について横浜市立大学は次の要因をあげています。

  • 患者の取り違えを起こしかねない患者移送,引き継ぎの運用システムであった。
  • 患者確認の手順,方法が決められていなかった。
  • 事故が起こり得ることを想定しておらず,二重,三重の安全策,危機管理の方策がなされていなかった。
  • 手術室での種々の疑問点を統合的,横断的に把握する機能が働かなかった。

【参考】医療事故の概要 横浜市立大学

これらの要因はスイスチーズモデルでいう「チーズの穴」です。そしてその脆弱な部分を危険はすり抜け事故に至ったのです。また、事故へ進行する過程においても、潜在的なエラーだけでなく即発的なエラーが連鎖しています。

この医療事故のように、事故に至る過程には複数のエラーが連鎖していることが多く、その背景には組織における脆弱性を生み出している潜在的要因が潜んでいることが多いのです。

スイスチーズモデルは、まさにこのような事故を発生させないための知恵であり、そして決して珍しくない現実を示唆しているものでもあるのです。

それでは次に、スイスチーズモデルを理解した上で、どのように活用していくべきかを次項で解説していきます。

スイスチーズモデルと医療安全~安全な医療と看護のために

それでは私たちはスイスチーズモデルの概念をどのように安全な業務に活用すべきなのでしょうか。

まず、そもそも防護壁としての安全対策の穴を作らないことが重要になります。安全対策の穴とは、その組織の脆弱性となって顕在化してきます。場合によっては気づかぬまま潜在的な要因として見過ごされ続けているかもしれません。

そこで重要なことは、まず自組織においてどのような弱点があるのかを平時から考慮していくことです。そして可能な限りリスクを排除し、業務上どうしても排除できないリスクは可能な限り低減することです。

スイスチーズモデルと防護対策

危険は「穴を作らない、通さない」「多重に防護する」というだけでは必ずしも排除・低減できるわけではありません。

スイスチームモデルの提唱者であるジェームズ・リーズンは、「レジリエンス(resilience)」の重要性を主張しています。レジリエンスとは「回復力」「復元力」あるいは「弾力性」と訳される言葉で、とても柔軟でしなやかな強さのことです。

スイスチーズモデルとレジリエンス

事故を発生させない取り組みは、事故が発生する可能性のある現場ではどこでも行っています。しかし、それでも事故やインシデントは絶えません。大切なことは、ただ単純に防護壁を設けて事故を防止するという発想ではなく、組織としてあらゆる状況に対応できる柔軟さを持つことです。

ジェームズ・リーズンは「頑健性(ロバストネス)」ではなく「柔軟さ(レジリエンス)」が重要だと主張しているのです。

スイスチーズモデルと医療安全

組織における「しなやかな強さ」とは、絶え間ない安全活動の継続性の中に存在します。

安全の対義語は「危険」ではなく「不安全」です。そのため、安全と不安全とのギャップを日頃から自覚し、そのギャップを無くすための活動の中にこそレジリエンスを生み出す要因があるのです。スイスチーズの穴とは、この安全と不安全の間にあるギャップであり、その脆弱性を危険は好みます。

そのため、医療における安全も、看護における安全も、多重の防護策を立てると同時に、レジリエンスを高めていくことが大切です。そのためには継続的な安全活動のPDCAサイクルを回し、絶え間のない安全管理に努めることが必要です。

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