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FMEA(故障モード影響解析)とは何か?
FMEAとは「Failure Mode and Effects Analysis」の頭文字からとったもので、故障モードの影響を解析するという意味になります。
故障モードの「故障」とは、失敗、不履行、断線、短絡、折損、摩耗、特性の劣化などのことです。
故障モードの「モード」とは、方法、方式、様式、形態などを意味します。
FMEAは本来、製品やシステムの信頼性や安全性を評価し分析する手法です。故障モードといわれる故障や不具合を事前に予測し、質の向上・安全性の向上を目指すものです。
FTAとの違いは、FTAが事後的に原因を分析する手法であるのに対して、FMEAは事前に起きる可能性のある故障や不具合を予測して対応することにあります。
FTAが望ましくない事象から分析するトップダウンの分析であることに対して、FMEAはボトムアップで、起きる可能性のある望ましくない事象を事前に予測する手法のことです。
また、RCA(根本原因分析)との違いは、RCAが事例に基づいた再発防止のための手法であり、FMEAは事前に起きる可能性のある事象を予測して未然に防止する手法だということです。
簡潔にいえばFMEAが事故の未然防止のため、FTA・RCAが事故の再発防止のためということになります。
FMEAを理解するには「FM」と「EA」を分けてみる
FMEAは大別すると、故障や不具合を抽出して列挙する過程(FM)と、故障や不具合を評価し解析する(EA)に分けることができます。
FMEAを理解をする上では、この2つの過程を分別してみるとわかりやすくなります。
- 故障や不具合を抽出して列挙する過程(FM)
- 故障や不具合を評価して分析する過程(EA)
医療におけるFMEAの留意点
FMEAは前述したように、製品やシステムの故障を未然に予測し、評価する分析手法です。
医療の場合には「故障」という言葉は適切とはいえません。なぜなら、医療で行う業務は製品やシステムだけではないからです。たしかに医療において行う業務には、「工程」といわれるようなプロセスがあります。
事前に定められた手順があり、マニュアルがある場合には工程どおりに行うのが通常です。しかし、医療の場合には当然ながら「患者」という人間を対象とした、いわば医療サービスであり製品を製造する工程とは違うものです。
人間は機械やシステムとは違い、刻々と状況を変化させるものです。そういった流動的で状態が安定しない対象を扱う医療においては、やはり故障という言葉はそぐわないのです。
ですので医療においてのFMEAでは、故障という言葉を「不具合」として取り扱うことになります。また、医療における事故の多くがヒューマンエラーなどのエラーによって起こることから、「エラーモード」という言葉が適切かもしれません。
しかし、エラーモードという文言を使用する場合に注意が必要なのは、FMEAはあくまでもエラーという望ましくない事象を始点とした分析ではないということです。
いずれにせよ、FMEAの原則的な分析手法を理解した上で、それぞれの業種にふさわしい文言に置き換えていただきたいと思います。
この記事では医療をモデルにしますので、故障を「不具合」モードを「様式」として進めていきたいと思います。
不具合にはエラー・インシデント・アクシデントの意味あいも含みます。
それでは以下にFMEAを実施する流れを解説していきます。
FMEAを実施する手順と流れ
分析する対象業務(工程)の選定をする
①分析の対象とする業務(工程)を選定する方法
不具合の全てに対してFMEAを実施することは、時間的にも物理的にも不可能に近いです。そのため、どの業務(工程)の分析を行うか選定する必要があります。
選定を行う方法には大きく分けて、次の3つのスタイルがあります。
- 現場において改善すべきと考える業務を選定する方法
- 管理者が収集した報告に基づいて選定する方法
- 施設管理者や委員会などが業務の変更または新規の業務を導入した場合に選定する方法
②分析する業務(工程)の範囲を選定する
①で選定した業務のすべてを分析することが可能であれば、範囲の選定を行う必要はありません。しかし多くの場合、選定した業務のすべてを分析することは難しいです。そのため、分析を行う業務範囲を絞り込んで選定することが必要になってきます。
分析する業務の範囲を選定する際の注意点は、特に対策が必要な工程が分析対象から外れないようにすることです。
③分析する業務(工程)の指示をだす
施設管理者もしくは委員会等の管理者は、FMEAを行うチームに分析をする指示を出します。
指示をする際には、①と②で選定した分析対象となる業務(工程)を、明確に指示することが大切です。
分析を実施するチームを編成する
分析するチームを編成する際の注意点
FMEAを行うチームを編成する際には、分析対象となる業務(工程)に精通したメンバーを選出することが重要です。必須ではありませんが、当該作業担当者が含まれることが望ましいでしょう。
大切なのは分析対象となる業務(工程)を深く理解し熟知しているメンバーが含まれていることです。
チームは5~6名が望ましいといわれていますが、業務の合間をぬって参加することになるので、招集が難しい場合には人数に関して適切な編成をしましょう。
また、チームのメンバー内にFMEAを実施した経験のあるメンバーが選出されるべきです。ただ例外として、FMEAに参加することは貴重な学習の場となるため、学習機会としての参加はFMEAの経験は問いません。
分析を行うチームにおけるリーダーの役割
分析を行うチームを編成したらリーダーを選任すべきです。
リーダーはチームのメンバーに対して、バランスよく作業を配分する役割を担います。FMEAはワークシートや業務フロー図など複数の図表を作成する必要があり、チーム内において作業配分を適切に行う必要があります。
また、作業の進捗管理や関係各所との連携など、リーダーの役割は重要です。
分析対象業務を理解する:工程の洗い出しをする
分析を行う業務(工程)を洗い出す
不具合を抽出するためには、当然ながら業務について深く理解していることが必要です。その業務の中から、まだ発生していない又は発生するかも不明な不具合を抽出することは容易ではありません。
そのため、まず業務の工程をしっかりと把握しておくことが大切になります。漏れのないように業務の作業レベルを洗い出し、想定していかなければなりません。
業務フローの中で行われる作業レベルを鮮明に想定し、シーンをつなぎ合わせてシナリオにしていくことが求められます。そのために、次は業務フローを図にしていきます。
業務フロー図を作成する
様々な職種や部署が関与する業務を、全体的また個別的に把握することは容易な作業ではありません。そのため、業務フロー図を作成し、業務の流れ(工程)を明確に把握できるようにします。
当該FMEAに関与する業務を行う職種・部署と連携しながら、全体の流れを正確に記述しましょう。
また、各部署において手順書などが存在する場合には、それぞれ持ち寄り収集して把握するとよいでしょう。
業務フロー図を作成する際のポイントは、分析を行う業務の把握に漏れが無いことです。
業務の工程表を作成する
業務の工程表は、業務フロー図だけでは把握しきれない細かな工程を記述します。フロー図は工程の詳細まで記述しきれない場合があるため、工程表の作成で補います。
業務の工程表は不具合の様式を抽出して列挙するために重要なものになります。
【業務工程表 例】
作成年月日:○年○月○日 作成者:○○
職種 | 大分類 | 小分類 | 工程番号 | 単位業務 | 業務の目的 |
FMEAワークシートを準備する
次に、分析を開始するにあたってFMEAワークシートを作成します。
【FMEAワークシート 例】
作成年月日:○年○月○日 作成者:○○
単位業務 | 業務の目的 | 状況 | 不具合様式 | 発生頻度 | 業務への影響 | 患者への影響 | 検知難易度 | 危険度 | 備考 |
通常のFMEAは故障モードを抽出して列挙したあとに、推定原因を記載します。医療の場合においては、不具合の様式はヒューマンエラーであることが多いためワークシートに記載しないことが多く、ここでは省略しています。
不具合様式を抽出する
ここで行う不具合様式の抽出はFMEAを実施する上で、非常に重要なポイントになります。不具合様式の抽出をされなかった業務は、分析されることなく放置される可能性があるからです。
そのため、不具合様式を抽出する際には、可能な限り多職種による検討と、自病院はもちろん他病院などの事例なども参考にしましょう。
様式の抽出には、作業単位ごとにシーンを想定し、展開していくことが求められます。漏れがないように徹底的に洗い出すことが重要です。
以下に不具合様式の抽出例を示します。
【不具合様式の抽出例】
職種 | 大分類 | 小分類 | 工程番号 | 単位業務 | 業務の目的 | 状況 | 様式 |
看護師 | 薬剤準備 | 患者ごと | 7-2 | 薬剤を準備する | 定時に投与する | 間違えやすいラベルがある | ラベルを誤認し取り違える |
影響を評価する(次工程への影響・全体への影響)
影響の評価は多数ある不具合の中で、対策をすべき優先的なものを判定するために行います。影響の評価は「危険度」を算出します。
危険度の算出方法は以下の公式になります。
危険度=発生頻度×影響度×検知難易度 |
発生頻度を評価する
5点 | 極めて高い頻度で発生する(週1回程度) |
4点 | かなり高い頻度で発生する(月1回程度) |
3点 | ときどき発生する(年数回程度) |
2点 | 稀に発生する(2~5年に1回程度) |
1点 | ほとんど発生しない(5年以上に1回程度) |
発生頻度とは抽出し列挙した不具合モードが発生する頻度のことです。たいていの場合、正確な頻度を測定していることは無いと思われます。そのため、分析を行うメンバーが推定することになります。
また、発生頻度を評価する場合には、点数を10段階にしたり5段階にしたりと、対象とする不具合によって適切に行う必要があります。
評価をしたらFMEAワークシートの「発生頻度」の欄に点数を記述します。
影響度を評価する
16点 | 極めて重大な影響がある |
8点 | かなり重大な影響がある |
4点 | どちらかというと重大な影響がある |
2点 | どちらかというと重大な影響はない |
1点 | ほとんど影響はない |
影響度を評価する場合の点数は、影響する可能性のある事柄によって「重みづけ」が変わります。分析するチームで検討した上で、点数を決定しましょう。
医療の場合においては、「影響の評価=患者への影響・業務への影響」となります。
評価を決定したらFMEAワークシートの影響度の欄に記述します。
検知難易度を評価する
5点 | 検知難易度は極めて高い |
4点 | 検知難易度はかなり高い |
3点 | 検知難易度はどちらかというと高い |
2点 | 検知難易度はどちらかというと低い |
1点 | 検知難易度はかなり低い |
検知難易度とは抽出して列挙した不具合モードによって、どれだけ患者や業務に影響を及ぼすかを評価することです。
点数を決定したらFMEAワークシートの検知難易度の欄に記述します。
対策を実施すべき不具合様式を選定する
発生頻度、影響度、検知難易度に基づいた危険度の評価をしたら、対策を優先的に行うべき不具合様式を選定します。
選定する際には「どこからどこまで対策範囲と定めるかを」明確にする必要があります。また、選定する不具合様式を「いくつ選ぶか」も検討すべきです。
評価して算出した危険度は、あくまでも相対的な数値であり絶対的なものではありません。そのため、数値だけに囚われずに多角的な検討が必要です。
また、患者への影響度は高いのに、業務への影響が低いといった場合もあります。逆に患者への影響は低いため、業務への影響を見落とすということもあるかもしれません。
危険度の数値は重要な判断基準とはなりますが、絶対的なものではないことに留意して選定を行いましょう。
対策を実施する不具合様式の分析をする
対策を実施する不具合様式を決定したら、その様式の原因分析を行います。その場合には「RCA(根本原因分析)」や「なぜなぜ分析」を行うことも有益です。また、特性要因図を作成して、不具合が生じる要因を明確にすることもよいでしょう。
いずれにしても、選定した不具合様式の対策を実施するために、原因を追究します。対策を実施するためには、ここでの原因分析が極めて重要になります。
※原因分析については以下の記事を参照
不具合様式の対策を実施する
不具合様式の対策は、大きく分けると次の3つを目的とします。
①排除 完全に不具合をさせない対策
②統制 排除はできないがリスクをコントロールする対策
③受容 直接的にではなく間接的な防止策で対策
当然ながら「①排除」が最も望ましい対策となります。しかし、対策の中には実現の可能性が難しかったり、時間的・経済的にも困難な場合も存在します。
そのため、①排除が対策として困難な場合には、②統制することを検討すべきでしょう。不具合をコントロールできるような対策を考えることも重要な対策となります。
対策を立案する際のポイントは、具体的で追跡評価が可能か否かです。
対策は実行がともなってこそ有意義なものとなります。そのため、具体的な対策内容を明確にしましょう。具体的な対策を立案をするためには、5W1Hの「いつ」「誰が」「なにを」「なぜ」「どのように」行うかを明確にするとわかりやすくなります。
また、対策を立案して実行するためには、FMEAを行ったチームのメンバーのみならず、関係者・関係部署の合意形成が重要になります。対策を有効的に実施していくためには、関係者・関係部署の協力は絶対に欠かせません。
対策の決定と実施をする
対策を立案した場合は、施設管理者(医療機関の場合は病院長)や当該対策を実施する部署管理者の承認を得ます。
その上で、当該対策を実施する関係者への徹底的な周知が必要になります。
関係者への周知を徹底しなければ、対策の追跡評価が困難になります。また、対策の周知をすることによって報告を得やすくなります。
対策の実施を追跡評価する
対策を立案して実施すると、当初は想定しなかった問題点や課題が出てきます。また、対策そのものの有効性もみえてきます。そのため、対策を実施した場合には、必ず追跡調査を行いましょう。
対策は実施してからが本番であり、対策立案で満足してはなりません。
どの対策が有効で、どの対策が有効ではないのか、追跡調査し再評価することはFMEAでもっとも大切なフェーズなのです。
対策が有効に機能しているかどうかによって、再び対策を立案するか否かを決定することになります。
まとめ
FMEAは事故の未然防止に有効な手法です。事後的に分析を行うトップダウンの手法とは違い、ボトムアップで分析を行う手法でもあります。
起こる可能性のある不具合を予測をして事前に対策を実施するという、ある意味ではとても難しいものでもあります。
そのため、FMEAを行う場合には、当該業務に熟練し精通したメンバーの参加が極めて重要になります。起こりうる不具合を予測しシーンとして思い浮かべ、シナリオとして思考する能力が求められるからです。
それだけにFMEAを行った経験と同時に、業務に精通した経験も問われるのです。
FMEAはトップダウンで望ましくない事象から原因まで遡る分析ではありません。しかし、わりと多くみられる間違いが、分析の始点を不具合やエラーから出発しているケースです。
それはFMEAと似て非なるものです。
FMEAは、予測されるものだけでなく、予測が困難なものからも不具合モードを抽出し列挙するものです。始点となるのは望ましくない事象ではなく、望ましくない事象に至る可能性のあるモードが要点なのです。