学習する組織とは~5つのディシプリンとシステム思考

学習する組織
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学習する組織とは何か~その意味と定義

学習する組織の概要と定義

「学習する組織」は1970年代にハーバード大学教授クリス・アージリスによって提唱された概念を、ピーター・センゲ(MITマサチューセッツ工科大学の経営学者)が1990年に改めて提唱して広めた概念です。

ピーター・M・センゲ 1947年-
クリス・アージリスが最初に提唱した「学習する組織」という理論を世界に広める。 SoL創設者 マサチューセッツ工科大学の上級講師 経営学者

ピーター・センゲは1990年に「The Fifth Discipline」(邦訳「最強組織の法則」1995年)を出版し、大きな注目を集めました。その中核となる考え方がこの「学習する組織」という概念だったのです。

「学習する組織」をクリス・アージリスは次のように定義しています。

学習と成長の意思を有する人に成長のチャンスを与え、自らも学習して進化する組織

学習する組織は、組織として持続可能なパフォーマンスを維持・成長させるための概念であり、変化の激しい現代社会でより発展するための組織的な成長戦略でもあります。その中核となるキーワードは「レジリエンス」です。

レジリエンスとは「回復力」「弾力性」「しなやかな強さ」などの意味です。学習する組織とは、このレジリエンスという要素を組織内で育み、継続的かつ持続的な成長をするための考え方でもあるのです。

そして、そのレジリエンスのある組織には、激しい変化や外乱に耐えた上でバランスを保つ柔軟性、変化への適応、そして能動的に学び自発的に成長する自己組織化する特性などが備わっています。

学習する組織は、レジリエンスのある組織を目指し、組織と個々人のコミットメントを促し、複雑な状況に対しても柔軟かつ力強く対応できる本質的な強さを備えた組織への好循環を生み出すことを目的としているのです。

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学習する組織~3つの柱

以下の図は「学習する組織」の全体像を可視化したもので「学習する組織の3つの柱」です。

学習する組織の3つの柱

チームの学習能力の向上は、前述したレジリエンスを生み出す最大の源泉です。そのため学習する組織は、チームの学習能力の向上を主眼としていくことになります。

そして、そのチームの学習能力を支えるのが次の「3つの柱」です。

  1. 志の育成
  2. 共創的な会話の展開
  3. 複雑性の理解

これら3つの柱は、学習する組織の重要な目的でもあります。またさらに、この3つの柱は学習する組織の学習領域を明示し、具体的な方法を提示しています。その5つの方法を次に解説していきます。

学習する組織~5つのディシプリン

学習する組織の5つのディシプリン

ピーター・センゲは具体的に学習する組織を構築するためには、次の5つのディシプリン(学習領域)が必要だとしています。

  1. システム思考
  2. 自己実現(マスタリー)
  3. メンタルモデル
  4. 共有ビジョン
  5. チーム学習

1 システム思考

システム思考とは、人間の活動や様々な事象を相互に関連したシステムとして捉える概念です。物事を単体として見るのではなく相互の関連や関係性に着目し、静止的ではなく動的に、断片的ではなく全体的に、そして変化を捉える見方です。

私たちを取り巻く環境は時代とともにますます複雑化しており、単純な原因と結果という見方だけでは非常に捉えられにくいものになっています。システム思考はこのような複雑化する環境の構造や変化のパターンを捉えることによって、より効果的に現実に対応し、受動的な立場から積極的に主体性をもって対応できる人間あるいは組織へと変革していくことができるのです。

2 自己実現(マスタリー)

自己実現とは、個々の人々が自らの仕事や役割を創造的に広げていく取り組みのことです。また、自らの成長のために絶え間なく継続的に学習し、活動していくことができる持続的な学習をさします。

自己実現は現状を正確に捉えて、将来へのビジョンを描き、そのギャップを能動的に埋めるために継続的な学習と実践が必要となります。

3メンタルモデル

メンタルモデルは、個々の人々あるいは組織の奥底にある固定化されたイメージやマインドです。メンタルモデルは個々の奥深い心に存在するため、周囲から非常に捉えにくいものであり、ときには本人でさえも無意識的で認識できないことが多いものでもあります。

前述したシステム思考における最深部がこのメンタルモデルであり、ここから目に見える出来事に至るまでの構造や挙動(パターン)を生み出しています。そのため、個人あるいは組織の変革や成長は、このメンタルモデルを認識した上で変化させることが極めて重要になります。

4 共有ビジョン

共有ビジョンは、組織を形成する個々人が共有しているビジョンのことです。「私」という個別的なビジョンの見方ではなく、「私たち」というチームのビジョンです。

組織といっても個人の集合体です。組織全体のパフォーマンスの向上は、個々人の成長とともにチームとしての成長が不可欠になってくるのです。そのため、互いが向き合うだけでなく、同じ方向に向かって学習し合える組織へとなるためにはビジョンを共有することが大切になってきます。

5 チーム学習

チーム学習は、ビジョンを共有したチームが協働して学び合っていく過程のことです。

複雑化する環境の中で成長していくためには個人の成長だけでなく、チームでの成長が重要になってきます。そのため、チームで学習し合う過程は、学習する組織そのものと言っても過言ではありません。学習する組織では、個人では果たしきれない成長をも可能にしてくれるのです。

学習する組織~システム思考と事例

システム思考の氷山モデル

システム思考の氷山モデル

学習する組織の根幹をなす概念はシステム思考にあります。そしてシステム思考の概念を可視化したものの一つが氷山モデルになります。

人々は表出した「できごと」に注目する傾向があります。しかし、できごとだけに注目していても物事の本質や事象の背景は見えてきません。できごとには必ず背景があります。原因といってもよいかもしれません。

その背景には、できごとを起こす挙動(パターン)があり、その挙動を生み出しているのが構造です。例えば組織において繰り返し発生するネガティブな現象には、それを発生させている組織的な挙動があり、その挙動を生み出しているのが組織における構造です。

さらにその構造をつくり出しているいるのは個人あるいは組織のメンタルモデルです。

組織における変革を目指す場合、できごとに注目してそこに働きかけるだけでは不十分なのです。変革を目指すならば、その背景にある挙動、つまり変化を捉える必要があります。そしてその変化をつくり出している構造を変えるためには、組織や組織を形成する個々のメンタルモデルを変えることが最重要になるのです。

システム思考は断片的な物の見方ではなく、その「断片」をつくり出している背景を全体的に捉える思考法なのです。そして学習する組織にはシステム思考による物の見方が大切であり、学習をより有意義で持続可能なものにするためにも欠かせない考え方でもあります。

システム思考のループ図

システム思考 ループ図

システム思考で物事を捉える場合には、「つながり」に注目することが大切です。例えば上の図のようにシステム思考のループ図で「能率の低下」を捉える場合、能率の低下という「できごと」に注目していても断片的にしか見えてきません。

そのため、なぜ能率が低下しているのかという「つながり」に着目し、全体を見ていくことが必要になります。図の例えでいえば、能率の低下を生み出しているのは疲労によるものであることがわかります。そしてその疲労を生んでいるのは睡眠不足であり、さらに睡眠不足を招いているのは帰宅時間の遅さにあるということになります。

この一連のつながりが見えてくると、一体どの部分を改善することが効果的なのか見えてきます。例えば残業をせずに早めに帰宅し休息をとることによって、全体的な負の連鎖を断ち切ることができるかもしれません。このような効果的な改善ポイントとなる部分を、レバレッジポイントあるいはティッピングポイントといいます

学習する組織においてシステム思考が重要な理由は、全体を捉えることによって「今なにを学ぶべきか」というポイントを捉えるとともに、「今どこに向かっている」のかを確認できることでもあります。

学習する組織とは、複雑な環境に対して柔軟に対応し、変化に対しても適応して成長し続けるためのシステムそのものなのです。

氷山の側面図

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