目次
看護師のバーンアウトとは
バーンアウト(Bornout)とは今まで意欲や熱意をもって働いていた人が、まるで燃え尽きたように意欲を失って無気力になることです。
別名「燃え尽き症候群」あるいは「バーンアウト・シンドローム」とも呼ばれています。
このバーンアウトは人的なサービスを提供する職種に従事している人々がなりやすい症状だといわれています。学校の教職員や介護職員にも多い症状ですが、とりわけ看護師は仕事の性質上、バーンアウトになりやすい要素を備えているといえます。
今まで積極的に仕事を行い意欲的に学習していた看護師が、仕事の忙しさからくる疲労感や人間関係での悩み、あるいは業務上の様々な葛藤によってバーンアウトすることが多くあります。
以下ではバーンアウトの症状について解説していきます。
看護師のバーンアウトの症状
看護師の業務は患者やその家族に対して、看護サービスを提供する人的なサービスです。ヒューマンサービスともいわれる業務の1つであり、非常にストレスを感じやすい職種ともいえます。
一方で看護師には「やりがい」を感じることができる要素もあり、これらの2つ(仕事の大変さと「やりがい」)の要素をバランスよく保っていくことでモチベーションを維持しているともいえます。
しかし一方で、それらのバランスを維持できなくなるほど業務が多忙であったり、業務上の問題を抱え込むことによってバーンアウトの状態に陥りやすくなっていきます。
バーンアウトに陥る際にみられる特徴は以下の3つです。
① 情緒的な消耗感
② 達成感の低下
③ 脱人格化
① 情緒的な消耗感
情緒的な消耗感はバーンアウトの主症状と言っても過言ではありません。多くの場合、ここからバーンアウトへ進んでいくことになります。
情緒的な消耗感をもつに至る過程や原因はさまざまです。もともと看護師には看護師になった動機があり、また人それぞれモチベーションを感じる部分もさまざまです。そのため、なぜ情緒的に消耗していくかということも人それぞれのパターンがあるといえます。
しかし多くの場合にみられる原因として、「業務の多忙さ」があげられます。仕事が激務であったり、夜勤が続いて慢性的な疲労を抱えるなどの場合です。これらの状態が持続的に継続することによって、心身共に疲れ果ててしまいモチベーションが著しく低下してしまうことがあるのです。
また、人間関係での悩みも情緒的な消耗を加速させます。バーンアウトが人的なサービスを提供する職種に多くみられるのも、やはり人間関係の悩みが一因となっているでしょう。
看護師の場合は多職種との関係、あるいは患者やその家族との関係など多くの関係性の中で仕事をしています。当然ながら同職種である看護師同士の関係もあります。これらの関係性の中で様々な悩みを抱え、少しづつ消耗していってしまうのです。
情緒的な消耗は、必ずしも1つの理由であるとは限りません。業務の多忙さや人間関係の悩みなどが、複合的に重なってしまうこともあるでしょう。それらの要因によって、情緒的なリソースが枯渇してしまうのが特徴です。
いずれにしても情緒的な消耗感は、バーンアウトに至る根本的な部分となります。
② 脱人格化
脱人格化とは患者やその家族、あるいは同僚などに対して非人間的な対応をしたり、無関心や思いやりに欠ける言動などが表れることをいいます。
この脱人格化は①で述べた「情緒的な消耗感」から繋がっていることが多く、バーンアウトの特徴的な状態でもあります。この連鎖はネガティブな連鎖であり、看護師の中で感じていた消耗感が表出した状態ともいえます。
「情緒的な消耗感 → 脱人格化」という連鎖は、必ずしもすべての人に表れるとは限りません。しかし、今までそうではなかった人が脱人格化した状態を顕在化させた場合には、その背景に情緒的な消耗感があることが多いということです。
脱人格化の特徴としては以下のようなものがあります。
- 他者に対する冷淡な態度
- 露骨なほどイライラした態度
- 他者への攻撃的な言動
- 他者への無関心
③ 達成感の低下
①情緒的な消耗感や②脱人格化の状態が「達成感の低下」にも重なってきます。看護師にとって達成感が低下することは、そもそも仕事をするモチベーションが低下することと同義といえます。
日々の多忙さや人間関係の悩み、その他さまざまなストレスは、この達成感(やりがい)によって支えらていることが多いものです。そのため、達成感の低下は、職業的なモチベーションに直結する問題となります。
この状態が継続すると、業務に支障をきたしたり、ミスをしてしまうなど仕事に悪影響が出ることもあります。そのことが更なる達成感の低下を生み出し、少しづつ悪循環のスパイラルになってしまうのです。
バーンアウトの特徴的な構造である3つの状態は、少しづつ時系列的に進行することもあれば、比較的短期間に重複してしまうこともあります。
看護師がバーンアウトする原因
役割葛藤
役割葛藤とは、同時に担うことができない複数の役割を抱えたときに生じる葛藤で、心理的な欲求不満を抱えることです。
役割葛藤は期待される看護師としての役割と実際に行うことができることのギャップにストレスを感じる。あるいは患者やその家族から期待される看護師としての自分と現実との対立によって生じます。
看護師は職務の特性上、この役割葛藤が生じやすいといわれています。
例えば可能な限りのリソース(医療資源)を使って「行為の保証」をすることができても、一方で「結果の保証」はできないなどの場合です。
自律性の制限
ここでいう自律性とは、自分で決めたルールや考え方に沿った行動をさします。看護師は医師の指示によって業務を行うことが多く、自分自身の自律性を制限されることがあります。そのため、自分の考えに必ずしも合わない指示にも対応しなければならない場面も少なくありません。
自分の自律性が制限されることによってストレスを感じたり、ときには無力感を抱えることもあります。
それによって少しづつ仕事に対する熱意や積極性が失われていく可能性があるのです。
慢性的な疲労
疲労には一時的な疲労と慢性的な疲労があります。
一時的な疲労であれば、休息をとることによって体力的に回復することができます。しかし慢性的な疲労の場合には、休息をとっても疲れがとれず、心身ともに疲労を蓄積していくことになります。
夜勤が多い勤務シフトや業務の多忙さがある場合、特に顕著な疲労となってきます。それによって、体力的なものだけではなく精神的にも大きな負担を感じることが増加していきます。
ワークライフバランスの乱れ
看護師にとって、仕事とプライベートの両立は極めて重要な問題です。プライベートな問題が仕事に大きな影響を及ぼすこともあるからです。
仕事上での悩みだけではなく、プライベートな悩みや問題もバーンアウトにつながる場合があるので注意が必要です。
また、仕事上で感じるストレスや疲労も、休日などプライベートの時間の過ごし方によって大きな影響があります。ストレスを解消できる時間や十分な休息をとれない環境では、前述した慢性的な疲労感につながりかねません。
人間関係の悩み
バーンアウトは人的なサービスを提供する職種に多い症状です。それだけに、人間関係の状態が大きな要因になってきます。
看護師は常に人と接する業務が多く、業務の特性上さまざまな職種と連携していかなければなりません。また、患者やその家族に対しても看護師として期待される対応をしていく必要もあります。そのため、前述した役割葛藤が多く発生します。
看護師同士の人間関係や多職種との関係。あるいは患者やその家族との関係など、看護師にとって人間関係を良好に保つことは、とても大きな負担になる場合があるのです。
看護師のバーンアウト~予防と対策
看護師という職種はバーンアウトする条件を兼ね備えているといえます。業務の多忙さに加え、患者やその家族との人間関係、そして職場内における同僚との関係など。
バーンアウトしてしまうことを予防するためには、その状態を誘発する要因に対して有効な対応をしていくことが必要となります。
この項ではバーンアウトを予防するための対策を解説していきます。
適切な休息をとる
業務が多忙で勤務シフトがきつい場合など、なかなか休息がとれないときこそ休息が必要です。夜勤の回数を減らしてもらえるように相談したり、有給休暇などを積極的に利用して、可能な限り休息をとるようにしましょう。
職場環境によっては、なかなか休息をとれない状況もあるかもしれません。しかし、質の高い看護をしていくためには、やはり心身ともにリフレッシュしている必要があります。
看護師を取り巻く環境は組織風土が大きく影響します。そのため、看護師が十分な休息をとれるように組織で取り組む必要もあります。
完璧主義を追い求め過ぎない
バーンアウトに陥りやすい人の特徴として、完璧主義で生真面目な性格が挙げられます。看護師の業務では1つのミスが大きな事故に発展することもあるため、完璧主義そのものは間違っていません。
しかし、過剰なほど完璧を求めたり、極端なほど心配性になってしまうと、それ自体が大きなストレスになってしまいます。そのため、完璧を追い求め過ぎないことが大切です。
この場合は同僚の協力や信頼関係がカギになります。
プライベートの時間を有効に使う
仕事以外の時間は、ときに仕事に大きな影響力をもっています。
仕事で疲労が蓄積していると感じているなら、できるだけ休息に時間を費やすべきです。逆にストレスを感じているような場合には、運動をしたり旅行に行くなどしてストレスを発散できる過ごし方も有効でしょう。
いずれにしても仕事で感じる疲労やストレスは、プライベートの時間を有効に利用することによって解消しましょう。
まとめ
看護師のバーンアウトとは、これまで意欲や熱意をもって働いていた人が、まるで燃え尽きたように意欲を失って無気力になる状態のことで、「燃え尽き症候群」または「バーンアウト・シンドローム」とも呼ばれています。特に人的なサービスを提供する職種に従事する人々がなりやすいとされ、看護師はその中でも特にバーンアウトになりやすいとされています。
看護師の業務は患者やその家族に対してヒューマンサービスを提供し、非常にストレスを感じやすい職種である一方で、仕事の大変さと「やりがい」のバランスを保つことが重要です。バーンアウトに陥る際に見られる症状には情緒的な消耗感、達成感の低下、脱人格化があり、これらは時に同時に進行することもあります。
看護師がバーンアウトする原因には、役割葛藤、自律性の制限、慢性的な疲労、ワークライフバランスの乱れ、人間関係の悩みなどが挙げられます。これらの要因に対処し、バーンアウトを予防するためには、適切な休息をとる、完璧主義を追い求めすぎない、プライベートの時間を有効に使うなどの対策が重要です。
バーンアウトになった場合は、同僚や上司に相談することが大切であり、看護師としての原点を忘れず、葛藤や悩みを一人で抱え込まずに解決するよう心掛けることが重要です。