心理的安全性と医療安全

はじめに

医療現場では、医療事故やインシデントが日々報告されている。これらの事例は、患者に重大な影響を及ぼすだけでなく、医療従事者自身の精神的負担や組織全体の信頼性低下を招く。厚生労働省が公表する「医療事故調査制度」の報告でも、毎年数千件の重大事例が記録されており、医療安全の確保は「誰もが安心して受けられる医療」の基盤であることが明確に示されている。しかし、事故防止のためにマニュアルを整備し、手順遵守を徹底しても、必ずしも十分ではない。「人が安心して声を上げられる環境」がなければ、リスクは潜在化し続けるからである。

近年注目されているのが、「心理的安全性(Psychological Safety)」の概念である。心理的安全性とは、チームの中で「発言しても報復を受けない」「ミスや懸念を安心して共有できる」状態を意味する。この概念はハーバード大学のAmy Edmondson教授が1999年に提唱して以来、製造業やIT業界、教育現場など幅広い分野で研究され、組織学習やイノベーションの促進要因として国際的に認知されてきた。特に医療分野では、チーム医療の複雑化や多職種協働の増加に伴い、心理的安全性が医療安全に直結することが数多くの研究で示されている。

日本の医療現場においても、医療事故の背景要因として「コミュニケーション不足」や「上下関係による発言の抑制」が繰り返し指摘されている。たとえば、研修医や若手看護師が「これはおかしいのではないか」と感じても、上級医や先輩職員に指摘できない雰囲気がある場合、重大事故につながる危険が高まる。逆に、心理的安全性が高い組織では、異変や違和感を即座に共有でき、未然に事故を防ぐ可能性が大きく高まる。

本記事では、こうした背景を踏まえ、心理的安全性の基本的理解から医療現場における重要性、直面する課題、具体的な改善施策、そして今後の展望までを包括的に論じる。特に、心理的安全性を医療安全文化の中核に据えることが、患者・医療従事者双方の安心につながるという視点から検討を進めていく。

心理的安全性とは何か

概念の定義

心理的安全性とは、「チームの中で率直に発言しても罰せられたり恥をかかされたりしない」という信念や感覚を指す【Edmondson, 1999】。つまり、職場において意見や懸念を自由に表明できる環境が整っている状態を意味する。

この概念は1990年代後半、ハーバード・ビジネススクールのAmy Edmondson教授が医療チームの研究を通じて体系化した。彼女の研究では、**「心理的安全性が高いチームほどエラー報告件数が多い」**という一見逆説的な結果が示された。これは、心理的安全性が高いチームではエラーを隠すのではなく、積極的に共有・学習していたことを意味しており、医療安全との関連性が強く注目されるきっかけとなった。

心理的安全性の4つの要素

心理的安全性は抽象的な概念にとどまらず、次の4つの要素に整理できる。

  1. 発言の自由
    立場や職種に関係なく、誰もが率直に意見を述べられる状態。特に医療現場では、若手看護師や研修医が「おかしい」と思ったことを躊躇なく指摘できることが事故防止に直結する。

  2. 失敗からの学習
    失敗を「個人の責任」として責めるのではなく、改善のための学習機会と捉える。これにより、失敗が隠蔽されず、再発防止策が生まれる。

  3. 相互尊重
    職種や役職を超えて互いに尊重し合う関係性。医師と看護師、薬剤師、コメディカルの間で上下関係が強すぎると心理的安全性は低下する。対等なリスペクトが、質の高いチーム医療を支える。

  4. 協働の姿勢
    メンバーが互いに支え合い、共通の目標(=患者安全)を優先する姿勢。個人の功績よりもチーム全体の成果を重視する文化が必要である。

医療現場における意義

この4要素が確立されると、チームメンバーは積極的に知識や経験を共有し、問題を早期に発見・解決できる。例えば、手術中に器具の取り扱いに疑問を感じた看護師が、心理的安全性の高いチームであれば即座に発言できる。これにより、小さな「気づき」が重大事故を未然に防ぐことにつながる。

また、心理的安全性は単なる「雰囲気」ではなく、組織の成果に直結する。Googleが2015年に発表した研究「プロジェクト・アリストテレス」でも、成功するチームに共通する最大の要素が「心理的安全性」であることが示されており、これは医療の現場にも適用可能な知見である。

医療安全における心理的安全性の重要性

発言しやすさが医療事故を防ぐ

医療現場では、研修医や看護師など立場の弱い職員が「これは危険かもしれない」と感じても、上級医や管理職に意見を言いづらい雰囲気がある。この沈黙の文化が重大事故につながることは少なくない。実際、ヒューマンエラー研究の分野では「気づきがあったにもかかわらず、声を上げられなかったこと」が事故要因の一つとして繰り返し報告されている【Reason, 2000】。

心理的安全性が高いチームでは、異変や不安を即座に共有できるため、事故を未然に防ぐことができる。たとえば、手術中に器材の準備に不備があった場合、看護師が率直に「準備が不十分かもしれません」と発言できれば、致命的な誤りを回避できる。心理的安全性は、小さな違和感を早期に顕在化させ、重大リスクへの連鎖を断ち切る防波堤となるのである。

チームワークの質を高める

現代医療の特徴は、医師一人が全責任を担うのではなく、多職種が協働して診療にあたる点にある。心理的安全性が確保されていると、医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師・リハビリ職などがフラットに意見を交わし、診療方針を一貫して共有できる。これにより、情報の齟齬や誤解が最小化され、患者に提供される医療の質が向上する。

逆に、心理的安全性が低いと、各職種が自分の領域に閉じこもる「サイロ化」が進み、情報の断絶が発生する。これにより、例えば薬剤師が処方内容に不審を抱いても「医師の判断だから」と黙認してしまうケースが起こりうる。結果として、本来なら防げたはずの医療事故が発生するリスクが高まる。

Googleが2015年に行った「プロジェクト・アリストテレス」の研究でも、心理的安全性の高さがチームのパフォーマンスを左右する最重要因子であると示されており、この知見は医療チームにもそのまま適用可能である。

インシデント報告の促進

医療安全を支える柱の一つが**報告文化(Reporting Culture)**である。しかし、報告に対して処罰的態度がとられる組織では、隠蔽や過少報告が常態化し、潜在的なリスクが表面化しない。実際、日本医療機能評価機構の「医療事故情報収集事業」でも、報告件数の少なさそのものが「安全な職場」を意味しないことが強調されている。

心理的安全性が高い環境では、「報告は責められる行為ではなく、改善の第一歩である」という文化が浸透する。職員は「報告すれば現場が良くなる」という信念を持ち、ヒヤリ・ハット事例が積極的に共有されるようになる。その結果、小さなエラーが大きな事故に発展する前に、改善策を講じることが可能になる。

国際的にも、WHOや米国のJoint Commissionは、医療安全の確保には「ノーブレーム文化(責めない文化)」の醸成が不可欠であると指摘している。心理的安全性は、このノーブレーム文化を支える心理的基盤となる。

心理的安全性が低い医療現場の課題

心理的安全性が低い職場では、医療従事者が本来持っている知識や経験を十分に発揮できず、結果として医療安全のリスクが高まる。以下では、日本の医療現場にしばしば見られる代表的な課題を整理する。

上下関係の硬直化

日本の医療現場では、依然として医師主導の強いヒエラルキーが存在する場合が多い。診療方針の決定権限が医師に集中し、看護師や薬剤師などの非医師スタッフが意見を述べにくい環境が形成されやすい。この構造的要因により、若手や非医師スタッフが発言を控える傾向が強まり、重要なリスク情報が埋もれることになる。

例えば、看護師が投薬量の誤りに気づいても「上級医が決めたことだから」と指摘できない場合、患者に深刻な影響を与える可能性がある。これは単に職場の雰囲気の問題ではなく、組織文化そのものが安全の障害となっている例である。

報告忌避と隠蔽

「報告すると責められる」「評価が下がる」といった恐れが、医療者に沈黙を強いる。こうした状況では、インシデントが表面化せず、改善の機会が失われる。日本医療機能評価機構がまとめる報告データでも、重大事故の多くが「小さなインシデントが積み重なった結果」生じていることが示されているが、その背景には「言えなかった」「隠してしまった」文化がある。

このような状況は「ブレーム・カルチャー(責める文化)」とも呼ばれ、職員が自らの身を守るために沈黙を選ぶことで、組織全体の安全性が損なわれる。逆に言えば、心理的安全性を高め、**「報告は罰ではなく改善につながる」**という信念を共有できなければ、真の医療安全は達成できない。

過重労働と疲弊

医療従事者の長時間労働やシフト勤務は、集中力の低下や判断力の鈍化を招く。過酷な労働環境では、心理的余裕が失われ、職員同士のサポートが希薄になる。結果として、周囲に助けを求めたりリスクを共有したりする行動が減少し、心理的安全性がさらに低下する悪循環に陥る。

また、慢性的な疲労は「燃え尽き症候群(バーンアウト)」を引き起こし、組織への信頼感やエンゲージメントを低下させる。これにより、医療従事者は「どうせ改善されない」という諦めの感覚を持ち、インシデントの報告や積極的な発言がますます抑制される。

以上のように、心理的安全性が低い医療現場には

  • 上下関係の硬直化による発言抑制

  • 報告忌避・隠蔽によるリスクの潜在化

  • 過重労働・疲弊による余裕喪失

といった複数の課題が存在する。これらは相互に関連し合い、組織全体の安全性を大きく損なう。医療現場の心理的安全性を高めることは、単に「雰囲気を良くする」ためではなく、患者の生命を守る最重要課題である。

心理的安全性を高める具体的施策

心理的安全性は「自然に高まる」ものではなく、リーダーの行動・制度の設計・教育の継続・会議運営の工夫といった具体的な取り組みによって醸成される。以下では、医療現場で実践可能な施策を整理する。

1. リーダーシップの発揮

心理的安全性を高めるうえで最も重要なのはリーダーの姿勢である。リーダーは「発言を歓迎する」態度を明確に示し、意見や報告に対してポジティブなフィードバックを行う必要がある。

例えば、カンファレンスの場でスタッフが意見を述べた際に「ありがとう」「気づいてくれて助かります」といった感謝の言葉を添えることは小さな行動に見えるが、チーム全体に「発言は価値のある行為」というメッセージを発信する。

加えて、リーダー自らがミスや失敗を共有する姿勢も重要である。上司が「私もこういう間違いをしたことがある」と率直に語ることで、メンバーは「失敗を話しても大丈夫」という安心感を得る。これにより、沈黙の文化を打破できる。

2. 報告制度の改善

インシデント報告制度は、単に導入するだけでは機能しない。報告が「処罰につながる」ものと認識されてしまえば、心理的安全性はむしろ低下する。

そのためには以下の工夫が有効である。

  • 匿名性の担保:特に初期段階では匿名で報告できる仕組みを設ける。

  • 迅速なフィードバック:報告があれば必ず「組織としてどう改善したか」を共有する。

  • 表彰制度の活用:報告件数や改善提案を積極的に行った職員を称える。

これにより、職員は「報告が評価される」「改善に直結する」と実感でき、報告件数が増加する。実際、匿名報告制度を導入した病院では、ヒヤリ・ハット報告数が大幅に増加し、重大事故の減少につながったと報告されている。

3. 教育・研修の導入

心理的安全性は一部のリーダーシップだけに依存するものではなく、組織全体で理解し、日常行動に落とし込む必要がある。そのためには教育・研修の導入が不可欠である。

  • シミュレーショントレーニング:手術室や救急外来を模した環境で、チーム全体が意思疎通や役割分担を練習する。失敗を「学習の機会」と捉える文化が自然に育まれる。

  • 多職種合同研修:医師、看護師、薬剤師、コメディカルが同じ場で意見を交換し、互いの役割理解を深める。これにより「相互尊重」が強化される。

  • 心理的安全性ワークショップ:心理的安全性の概念そのものを学び、日常業務でどう実践するかをディスカッションする。

教育は単発で終えるのではなく、定期的に繰り返し行うことで、組織文化に根付いていく。

4. チーム会議の工夫

日々のチーム会議も心理的安全性を高める重要な場となる。会議は「情報伝達の場」で終わるのではなく、「意見交換と学習の場」として設計すべきである。

具体的な工夫としては以下が挙げられる。

  • 冒頭でのメッセージ:「安全のために自由に発言してください」とリーダーが毎回明言する。

  • ラウンドテーブル方式:順番に全員の意見を求める。発言機会を均等にすることで沈黙を防ぐ。

  • チェックアウト質問:「今日の会議で懸念は残っていないか?」と最後に確認する。

これらの仕組みを取り入れることで、会議が形式的な報告会ではなく、双方向の対話による安全文化形成の場となる。

心理的安全性を高める施策は、リーダーの態度、報告制度の工夫、教育研修、会議運営の改善と多層的である。これらを組み合わせることで、**「誰もが安心して声を上げられる環境」**が形成され、結果として医療事故防止や患者安全の向上につながる。

心理的安全性と医療安全文化の関係

心理的安全性は、James Reasonが提唱した「安全文化(Safety Culture)」の4要素(報告文化・公正文化・柔軟文化・学習文化)と密接に関連している。医療現場において心理的安全性が確立されると、この4要素が相互に強化され、組織全体の安全水準が高まる。

  • 報告文化(Reporting Culture)
    心理的安全性が高いと、スタッフはインシデントやヒヤリ・ハットをためらわずに報告できる。これにより「潜在リスク」が早期に可視化され、重大事故の防止につながる。

  • 公正文化(Just Culture)
    失敗を個人責任として糾弾せず、組織全体の改善につなげる姿勢が強まる。心理的安全性があることで「責任追及より改善重視」の行動様式が根づき、報告や提案がさらに促進される。

  • 柔軟文化(Flexible Culture)
    不測の事態に直面した際に、上下関係に縛られずに役割を柔軟に再編できる。心理的安全性がなければ「指示がないと動けない」状況が生じるが、心理的安全性が高ければメンバーが主体的に協働できる。

  • 学習文化(Learning Culture)
    報告や提案を単発で終わらせず、改善策として仕組みに反映する持続的な学習が定着する。心理的安全性は「失敗を学習機会と捉える姿勢」を支える心理的基盤である。

このように、心理的安全性は安全文化の4要素を「実際に機能させる原動力」であり、医療安全の実現に不可欠な要素である。

実践事例:心理的安全性の向上と医療安全の改善

国内の取り組み

日本のある大学病院では、看護部と医療安全管理部が協力し、多職種による**「安全ラウンド」**を導入した。医師・看護師・薬剤師・検査技師が定期的に病棟を巡回し、現場スタッフに「最近困っていることはないか」「不安に感じていることは何か」と直接問いかける仕組みをつくった。

この取り組みにより、スタッフが自由に意見を述べる機会が増え、インシデント報告件数は前年比で約30%増加した。報告内容を分析した結果、輸液ルートの接続手順や夜間の人員配置に関する課題が明らかになり、早期改善策の導入につながった。職員アンケートでも「上司に意見を言いやすくなった」「報告しても責められない」という回答が増加しており、心理的安全性の向上が確認された。

国際的な取り組み

米国のジョンズ・ホプキンス病院では、心理的安全性を強化する目的で「カンファレンス・チェックイン」を導入した。これは、カンファレンスの冒頭で必ず「不安なことはないか」「懸念点はあるか」を全員に尋ねる仕組みである。これにより、普段は発言しづらい若手医師や看護師も率直に意見を述べる機会が増えた。

導入後の評価では、報告件数が増加するとともに、改善提案数も大幅に増加。さらに、医療チームの満足度調査では「自分の意見が尊重されている」と答える割合が上昇し、心理的安全性の強化が医療安全文化の深化に直結していることが示された。

国内外の事例は共通して、「発言しやすい環境を制度的に保障する」ことが心理的安全性向上のカギであることを示している。そして心理的安全性は、Reasonの安全文化モデルを実際の医療現場で機能させるための実践的エンジンであり、組織的に高める取り組みが不可欠である。

表:心理的安全性が医療安全に与える効果

心理的安全性は、単なる「職場の雰囲気」ではなく、医療安全の成果指標に直接影響を与える要因である。以下の表は、心理的安全性の有無が医療現場に及ぼす違いを整理したものである。

領域心理的安全性が高い場合心理的安全性が低い場合
インシデント報告報告件数が増え、データ分析に基づく再発防止策が立案されやすい報告が抑制され、潜在リスクが可視化されない
チームワーク多職種間で自由に意見交換ができ、診療方針の一貫性が担保される情報の断絶、サイロ化が進み、誤解や齟齬が増える
学習文化失敗を組織学習の資源とし、改善が進む失敗が隠蔽され、改善が停滞し同じ事故が繰り返される
患者安全事故の未然防止が進み、インシデント率・事故率が低下する小さなミスが重大事故へ発展しやすい

この表からも明らかなように、心理的安全性は組織の安全文化を動かすエンジンであり、その有無が患者安全に直結している。

今後の展望

人材育成とリーダーシップ

心理的安全性を確保するリーダーを育成することは喫緊の課題である。特に管理職や中間層のリーダーは、現場の雰囲気を大きく左右するため、リーダーシップ教育の中に心理的安全性の要素を組み込むことが求められる。

  • 管理職研修に「傾聴スキル」「非懲罰的対応」「フィードバックの与え方」を組み込む。

  • 若手リーダー育成の段階から「心理的安全性を守ることが成果につながる」という意識を醸成する。

  • ロールモデルとなる行動(失敗の共有、感謝の言葉、意見の尊重)をトップ層が率先して実践する。

これにより、組織全体が「声を上げることを歓迎する文化」に変わっていく。

組織文化の変革

心理的安全性を高めるためには、「責める文化」から「学ぶ文化」への転換が不可欠である。制度やマニュアルの導入だけでは不十分であり、トップマネジメントの明確な姿勢と持続的なコミットメントが求められる。

  • **ノーブレーム文化(No Blame Culture)**の徹底:報告者を責めず、組織改善の糧とする。

  • **公正文化(Just Culture)**の定着:意図的なルール違反は厳正に扱い、過失やシステム要因は改善につなげる。

  • 学習文化の強化:報告・改善・教育が一体化したサイクルを回す。

この転換は短期的には困難だが、インシデント報告数の増加や職員満足度の向上として成果が可視化されることで、徐々に組織に根づいていく。

デジタル技術の活用

近年、デジタル技術は心理的安全性と医療安全を支える有力な手段となっている。

  • AIを用いた報告分析:大量のインシデント報告を自動分類・解析し、エラーパターンを早期に検出。

  • 匿名性を担保したオンライン報告システム:報告者の心理的ハードルを下げ、報告文化を促進。

  • IoTによる患者モニタリング:リアルタイムで患者情報を共有し、リスクを即座にチームに通知。

  • ブロックチェーン技術:診療記録や報告内容を改ざん不可能な形で保存し、透明性を担保。

これらの技術は「心理的安全性を制度的に補強する」役割を果たし、報告・学習・改善のプロセスを効率化する。

まとめ

心理的安全性は、医療安全を支える基盤である。発言の自由、失敗からの学習、相互尊重、協働姿勢が保障されることで、医療従事者は安心して意見を共有できる。その結果、インシデント報告の活性化、チームワークの強化、学習文化の定着が進み、患者の安全が守られる。

今後は、以下の3つを組み合わせることで、心理的安全性を中心とした医療安全文化をさらに発展させていくことが期待される。

  1. リーダーシップ教育による人材育成

  2. 組織文化の変革による「学ぶ文化」の定着

  3. デジタル技術の活用による制度的・技術的支援

心理的安全性は単なる「職員の満足度向上」にとどまらず、患者の生命を守るための実践的アプローチであり、これからの医療安全の中核的概念である。

参考文献

  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.

  • 厚生労働省. 医療事故調査制度 年次報告. 2023.

  • World Health Organization (WHO). Patient Safety Curriculum Guide. 2009.

  • Reason, J. (2000). Human error: models and management. BMJ, 320, 768–770.

  • 日本医療機能評価機構. 「医療事故情報収集等事業 年報」, 2022.

  • 野村英樹ほか. 『医療安全学入門』 医学書院, 2019.

エンゲージメントと医療安全

2023-03-19

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