コンピテンシー(competency)は組織行動学の用語で、ハーバード大学のマクレランド教授が提唱した概念です。最近では人事評価、人材育成の分野で注目されており、多くの企業や団体で活用されています。この記事ではコンピテンシーの意味について事例やモデルを用いながら解説していきます。
目次
コンピテンシーとは何か?その意味と定義について
コンピテンシー(competency)とは成果につながる行動特性のことです。主に人事評価や人材育成などに活用されている概念です。コンピテンシーの語源は英語のコンピテンス(competence)からきており、「環境に適応した能力や技術等」をさす言葉が由来になっています。
優れた成果を発揮している人には特有の行動的な特性があり、その特性を把握することによって他のスタッフの人材育成に活用していくことがコンピテンシーが注目される理由でもあります。また、行動特性に注目するということは、従来型の成果主義や能力主義と異なり、結果だけではなくその過程にも焦点を当てることになります。
したがってコンピテンシーの活用は、より実践的な人材育成へとつながり、高い教育効果があるのです。
またコンピテンシー評価とは、高い業績や成果を出す人に共通する行動特性を把握し、それらの特性を基準として評価していきます。つまり評価すべきことを評価するということです。そうすることによって、成果につながる特性を共有することができると同時に、より適切な人材評価をすることが可能になります。
しかし、コンピテンシーの概念を活用する目的は評価のためだけではありません。評価はあくまでも手段であり、本来の目的は組織全体のパフォーマンスを向上させることにあります。
成果を出している人、仕事ができる人には、その結果につながる行動特性があります。結果には原因がありますので、そういった意味ではコンピテンシーとは成果につながる原因ともいえます。そしてその原因を組織全体で共有し向上させることによって、組織全体の成果を向上させることが可能になるのです。
コンピテンシーの概念を図にしたものが以下になります。
人間は機械ではありません。必ず結果にはその結果を生む行動があります。つまりコンピテンシーは、成果を生み出す行動から、そのさらに背後にある特性を見抜くことを必要とします。そしてその行動特性であるコンピテンシーを「教育」や「育成」「評価」に活かし、組織全体のパフォーマンスを向上させることを目的としているわけです。
コンピテンシー評価と従来型の評価方法との違い
コンピテンシー評価は、被評価者の年齢や勤続年数、あるいは保有する資格などで評価する「職能資格型評価」や仕事の結果に重点をおいた「成果主義型評価」とは違い、そのプロセスに着目する評価方法です。
従来型の評価と違い成果につながる行動特性に焦点を当てることによって、結果的には従来型の評価の良い面を輝かせることが可能になります。なぜならコンピテンシーへの着目は、結果的に成果につながると同時に人材の能力向上へとつながっていくからです。
そのためコンピテンシーに基づいた人材育成や人事評価は、より成果に結びつきやすいものであり、個人にも組織にも利益のあるものとなるのです。
コンピテンシーの例~具体的な行動の中にあるもの
コンピテンシーは職場内において優れた業績をあげていたり、高い成果をあげている人をモデルにしていきます。そのようなモデルとなる人をハイパフォーマーといいます。
例えば「看護師」をモデルにした例では以下のようになります。
看護師Aは患者に与薬をする際に、必ず患者自身に名前を名乗ってもらうことにしている。それによって誤薬のインシデントが発生しないように努めている。そのため、他の看護師と比較して、誤薬により事故を起こすことが極めて少ない。
病棟内であらかじめ「患者自身に名乗ってもらう」という取り決めは無かったが、看護師Aの与薬方法が事故の防止につながることに倣って、他の看護師も同様の方法で与薬をすることにした。
それによって、病棟内における与薬のミスが減少し、看護業務の安全性が向上した。
この例の場合、コンピテンシーは看護師Aの「必ず患者自身に名前を名乗ってもらうことにしている」という行動特性になります。
この例におけるコンピテンシーには少なくとも2つのコンピテンシーがあります。それは以下の2つです。
①患者自身に名乗ってもらうことによって、他の患者と間違って与薬をしないようにしている部分。
②看護師Aが「必ず」それを行っている部分です。
そしてコンピテンシーで重要なことは、優れた行動特性の表層だけに着目するのではなく、その背景にある要因にも目を向けることです。つまりそれらの行動特性は、その背景に高いプロ意識があったり、人を思いやれる気持ちがあるなどの心理的なコンピテンシーが存在する場合もあるのです。
それでは次にコンピテンシーの背景要因にスポットを当て、それをモデル化していく過程を解説していきます。
コンピテンシーモデル~氷山モデルによる能力の可視化
コンピテンシーには定型があるわけではありません。業種や職種によって求められる成果やパフォーマンスが違うからです。そのため、定まった評価基準や項目があるわけではないということになります。
コンピテンシーはあくまでも概念です。
大切なのは自分たちの組織におけるコンピテンシーとは何かを見出し、それに基づいた評価をすることです。そうすることによって、組織におけるパフォーマンスを向上させていくことが可能になります。そのため、組織としてコンピテンシーのモデルを形成していく必要があるということになります。
それでは、どのような要素に着目し、モデルを形成していくかを次に解説していきます。
コンピテンシーのモデルを形成する
コンピテンシーとは、明らかにそれとわかる成果や結果に着目していても見えてこない側面があります。高い成果や結果には、それを生み出す行動があり、その行動にはそれを生み出す背景要因があるからです。
そのようなコンピテンシーの構造を図にしたものが以下になります。
人は見えやすいもの、理解しやすいものに注目する傾向があります。もしも見える部分だけで評価するなら、それは従来型の成果主義あるいは能力主義と何ら違いがありません。コンピテンシーは見えにくい行動特性を見抜くことが必要となるのです。
そのため、コンピテンシーのモデルを作成する際には、職場の中でパフォーマンスが高い人の行動特性を把握する必要があります。
先ほど例にあげた看護師Aの場合、表面的にみれば「与薬をする際に必ず患者自身に名乗ってもらっていた」という行動がありました。しかし、看護師Aには、その行動をする特性があるのです。
評価すべきはその「行動特性」です。
例えば以下のようなモデルになるかもしれません。
医療安全への姿勢、態度が優れている
過去の失敗経験から学ぶ学習力がある
患者と適切なコミュニケーションをとれる
こういった深い理解に基づいた特性を見抜いた上で、評価する事項を決定しモデル化していきます。表面的な成果や行動だけではなく、その背景にある特性からコンピテンシーのモデルを形成していくことが大切なのです。そのためには優れた成果をあげたり、高いパフォーマンスをしている人と対話して、行動特性を把握していくことが重要になってきます。
具体的なコンピテンシーの把握と評価モデルや項目の作成をする際には以下のページも参考にしてみて下さい。
まとめ
コンピテンシー(competency)は組織行動学の概念であり、ハーバード大学のマクレランド教授が提唱し、近年では人事評価や人材育成で注目され、多くの企業や団体で活用されています。
コンピテンシーは成果につながる行動特性を指し、人事評価や人材育成に応用されます。この概念は英語の”competence”に由来し、「環境に適応した能力や技術等」を指します。コンピテンシーは結果だけでなく、行動の過程に焦点を当てる点が従来の成果主義や能力主義と異なります。
コンピテンシー評価は、高い業績や成果を上げる人に共通する行動特性を把握し、それを基準に評価します。このアプローチは組織のパフォーマンス向上に繋がり、成果に結びつく特性を共有することが可能です。
コンピテンシーの概念を具体的な行動に結びつけたモデルの作成は組織により異なります。優れた成果を上げる個人の行動特性を把握し、それに基づく評価モデルを形成することが重要です。これによって、表面的な成果だけでなく、背後にある特性を理解し、個人と組織のパフォーマンス向上を図ります。