目次
- 1 RCA(根本原因分析)とは何か~真因分析を行う手法
- 2 RCA(根本原因分析)の流れ
- 3 まとめ
RCA(根本原因分析)とは何か~真因分析を行う手法
RCAの概要
RCA(根本原因分析)とはインシデント(ヒヤリハット)やアクシデントの真因分析をする手法です。
RCAとはRoot-Cause-Analysisの頭文字をとった略語で、根本の原因を分析するという意味になります。
RCAを行う目的はインシデントやアクシデントの根本原因を分析することによって再発を防止することにあります。したがって、事故を未然に防止するというよりも再発を防止するための分析です。
RCAは医療安全において最もポピュラーな分析方法の1つとして、多くの医療機関に浸透しています。その理由はインシデントやアクシデントを表面的に対策するのではなく、根本的な対策を行うことが可能だからです。
インシデントやアクシデントの根本原因に辿り着くことに有効な手法であるため、効果的な再発防止策を立てやすい方法です。
いずれにしてもRCAは、体系的に確立された分析手法であるため、医療安全における事故防止に大きな効果があります。
以下にRCAの大まかな流れについて解説していきたいと思います。
RCA(根本原因分析)の流れ
インシデント(ヒヤリハット)・アクシデントの事例を報告する
インシデントやアクシデントの原因を分析する際には、当然ながら発生した事例の報告が必要になります。まず、発生した事例を受けて、RCAで分析を行うのか否かを決定しなければなりません。
インシデントやアクシデントの分析は、報告があってはじめて始動することができます。分析を行うためには、インシデント報告によって事実を把握することが必要なのです。
病院によっては報告されるインシデントやアクシデントの数は相当数にのぼるため、事例を分析するのは物理的にも大変に困難がともないます。すべてを分析することは不可能に近いでしょう。
そのため、どの事例を分析するかを決定することが、RCAにおける最初のステップになります。
RCAを実施するか検討する(トリアージ)
理想を言えば、すべてのインシデントを分析して対策をとることが望ましいでしょう。しかし、すべてを分析し対策することは極めて困難な作業です。日常業務の合間をぬって分析と対策をするには、時間的にも物理的にも限界があるためです。そのため、発生した事例から何を分析して対策を実施するかを取捨選択しなければなりません。
何を分析して対策を実施するか選択する際には、まず原則的に犯罪性のある事例は除外する必要があります。ここでいう犯罪性のある事例とは、意図的に事故に至った場合や故意に事故を発生させた場合をさします。
何を分析して対策を実施するかの選択は、まず分類があって可能になります。その分類をする際には、いくつかの手法があります。ここではインシデントが発生している頻度と影響度から分類する「SACマトリックス」の手法に基づいて進めます。
【SACマトリックス】
破滅的な事故 | 重度の事故 | 中等度事故 | 軽度の事故 | |
頻繁 | 3 | 3 | 2 | 1 |
たまに | 3 | 2 | 1 | 1 |
稀に | 3 | 2 | 1 | 1 |
ごく稀に | 3 | 2 | 1 | 1 |
- 頻繁 しばしば発生して、すぐ再発する
- たまに 1~2年に数回は発生する
- 稀に 2~5年に数回は発生する
- ごく稀に 5年~30年に数回は発生する
※ 原則的にスコアが3以上はRCAを実施する
RCAを実施するチームを招集する
分析する事例が決定したら、RCAを実施するメンバーを選出して招集しましょう。すでに分析を行う委員会等が決定している場合には、そのメンバーでチームとして分析を実施します。
メンバーを選出する上でのポイントとしては、可能な限り多職種による混合のチームを編成することになります。多職種により編成されたチームのメリットとしては、同じ職種のメンバー同士では生まれないような発想や気づきがあるためです。また、様々な角度から発生した事象を見ることによって、本質的な原因に辿り着く可能性が高まるからです。
また、RCAを実施するチームに参加することは、スタッフにとって貴重な学習の場ともなります。教育という意味において、分析に参加することは非常に有益なものになります。
出来事流れ図を作成する
ここから本格的にRCAの実施になります。まずは事実を把握して分析のベースをつくるために、出来事流れ図の作成をしましょう。
出来事流れ図とは、報告された報告書などの資料に基づいて、発生したインシデントを時系列に経過を記載していく図のことです。
出来事流れ図を作成する流れは以下のようになります。
- 事例の読み込みを行い事実を把握する
- いつ、どこで、誰が、誰に、何をしたかを確認する
- 1つの出来事づつ事実を書き出していく
- 出来事を時系列に並べる
- インシデントが発生した時間の経過と事実を確認する
※付箋を使用する場合には、1枚の紙に1つの出来事を書きましょう
なぜなぜ分析を行い、根本原因を追究する
出来事流れ図を作成したら、次に「なぜなぜ分析」を行っていきます。
なぜなぜ分析とは、それぞれの出来事に対して「なぜそうなったか?」という問いをして、それに答えていく作業です。「なぜ?」に答えることによって、少しづつ問題を掘り下げていくことができます。それによって、問題の真因に辿り着くようになります。
なぜなぜ分析を行う際の注意点としては、もう他に「なぜ?」という問いが無いかを確認することです。そのためには違った視点から出来事をみることも大切です。
情報を精査する(現場への調査・当事者へのヒアリング)
現場の調査や当事者へのヒアリングを行う理由は、報告された資料だけでは知りえない情報を得るためです。どうしても資料だけでは知りえないことがあるためです。そのため、資料からの情報と現場・当事者から得られる情報にはギャップが生まれます。そのギャップをうめるために現場を調査し、当事者へのヒアリングを行うのです。
なぜなぜ分析を行う前に現場の調査や当事者へのヒアリングを実施してもOKです。大切なのはインシデントレポートで得られる情報と実際の現場の情報とのギャップをうめることです。
現場の調査や当事者へのヒアリングを行うメリットは、院内で使用しているインシデントレポート(報告書)の改善点を知ることができることです。
実際に必要な情報とインシデントレポートの書式とでは、ギャップがある場合があるからです。改善点がわかったら随時レポートのフォーマットを、より現場の状況を把握しやすいように改訂を重ねることも必要になります。
因果関係図の作成と根本原因を確定する
なぜなぜ分析や現場の調査・当事者へのヒアリングを終えたら、因果関係図の作成を行います。
因果関係図とは、インシデントやアクシデントが発生した原因と結果を明確にするために行うものです。なぜなぜ分析や現場の調査などで明らかになった根本原因と、インシデントやアクシデントの結果を明確に図にします。
根本原因は必ずしも1つとは限りません。複数の根本原因がある場合もありますので注意が必要です。
【因果関係図の例】
※注意
因果関係図は「なぜなぜ分析」「出来事流れ図」とは矢印の方向が逆になります。
因果関係図を作成する際の5つのポイント
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対策を立案する
根本原因を特定することができたら、次にその原因に対してどのような対策をしていくかを立案します。対策を立案するにあたって注意が必要なのは、実行が可能かどうかです。
どれだけ素晴らしい対策を立案しても、実行が不可能であれば意味がないからです。
そのため、対策を立案するにあたっては、次のポイントに注意しましょう。
- その対策は実行が可能か
- その対策は容易に行えるか。具体的に行えるものか
- その対策を実施した場合、効果があるのか
- その対策は費用対効果としてコストは容認できるか
- その対策は継続して行えるか
- その対策は他の業務を圧迫しないか
- その対策は本当に根本原因に対する対策になっているか
以上のポイントに注意して、対策を行うか決定しましょう。
対策立案表を作成する
【対策立案表の例】
原因 | 対策 | 実施期限 | 実施責任者 | 実施の追跡方法 | 評価時期 | 承認 | |
1 | 承認 ・ 不承認 |
対策立案表には対策の内容だけではなく、実施に期限を設定し明記する必要があります。また、実施にあたっての責任者、実施の追跡方法、評価の時期も明記し管理者の承認を受けることが大切です。
管理者への報告と対策を実施する承認を得る
対策立案表の作成が完了したら、施設の管理者に報告して承認を得ましょう。この場合の施設管理者とは、医療機関では主に病院長ということになります。
根本原因の対策には施設全体での取り組みも必要になる場合が多くあります。そのため、施設の管理者に報告し承認を得ることは非常に重要です。
管理者の協力を得て対策を実施することによって、施設全体の協力も得られるのだと肝に銘じましょう。
分析の結果をフィードバックする
RCAを実施してインシデントやアクシデントの根本原因を特定し、対策の実施を決定したらフィードバックが必要になります。
フィードバックは当該インシデントが発生した現場の職員、必要な場合には患者や家族への説明も行います。
また、内容によって「何を」「どこまで」フィードバックするかは検討の上、適時適切に行うことが大切です。
当該インシデントが発生した現場へのフィードバックは、可能な限り詳細に行い、再発を防止するための対策を迅速に行えるように配慮しましょう。
関係各部署の責任者に連絡して対策を実施する
対策を周知し徹底するためには、当該インシデントが発生した現場への連絡だけでは不十分です。また、局所的な対策だと判断し、関係部署との間で二次的な事故が発生しないとも限りません。
そのため、関係各部署に対して、対策を実施する旨を連絡することが大切です。関係各部署からの協力が必要な場合には、可能な限り情報を開示して共有することも重要です。
対策は施設全体で行うことだと理解して、周知していくことが大切なのです。
実施した対策を追跡して評価する
【対策実施後の流れ】
対策を実施した後に、その状況を追跡することは極めて重要です。対策を実施したことで満足し、その後に何の追跡も評価もしなければ意味がありません。
実施した対策が本当に有効なものなのかは、実施してみて理解できるものです。そのため、対策を実施した後には、期限を決めて定期的に状況を追跡し評価しましょう。
もしも対策を実施しても効果を感じることができなければ、対策が間違っているか不十分な可能性があります。また、そもそもの根本原因の特定が間違っているかもしれません。
いずれにしても、対策を実施した後、状況を追跡して評価することで効果が明らかになるのです。対策を実施したことだけで満足せず、しっかり効果があるまで追跡・評価することが大切です。
まとめ
RCA(根本原因分析)の目的は、インシデントやアクシデントの再発を防止することにあります。インシデントの分析をするとき、表面的な原因に囚われて対策を実施しても決して再発防止はかないません。
インシデントやアクシデントを再び起こさないためには、根本の原因を特定し有効な対策を実施していく必要があるのです。
RCAは根本原因を特定し対策を実施する上で非常に有効な分析方法です。しかし、インシデントやアクシデントというのは簡単には無くなりません。だからこそ、繰り返し根気強く対策を実施していくことが大切なのです。
対策を実施したことだけではなく、有効な対策と評価できて再発を防止することができるまでがRCAです。
RCAを行う目的は、分析や対策にあるのではなく、再発を防止するためなのですから。